2025年10月23日木曜日

相手にとって難しい場合:インタビュー聞き取り調査

まだ慣れないうちは、インタビュー調査をしたあと「期待していたように相手からの経験談などが聞き出せなかったなあ」という感触を得ることはよくあります。ゼミでもそういう感想を聞きます。なぜでしょう?

このことについての答えは、簡単にいうと2つです。

(1)相手の話してくれた内容が、あなたの予想したこととはちがっていて、関係ないことのように思えた。

(2)なぜか相手がほとんど話をしてくれなかった、やりにくそうにしていた。 

…これらはいずれもこれからあなたが解決すべきことです。以下では順に説明していきます。

まず(1)に関して。いくつかのことが考えられます。2通りに場合分けしていますが、どちらかが当てはまるということではありません。たいてい、どちらの要素も入っていると思います。

(1-a)テーマやトピック、目的の伝え方

あなたが、あなたの調査テーマや目的をうまく伝えきれていないことが原因で、焦点が定まらないやり取りになってしまっている。たとえば、そもそもテーマや目的を伝えていないか、かなり広く解釈できるような大きく・ぼんやりしたテーマを伝えてしまっている。相手に合った説明が足りていない。相手が親切ならそれでも話してくれます。

また、相手に説明できていないだけでなく、ゼミでは文章の形でレジュメを作成できていても、実はあなたも深く理解していない場合もよくあります。同じテーマでも幾通りにもパラフレーズできるように、あなたの研究テーマや調査目的について誰かと質疑応答が3往復以上は平気でできるようになっておくことが必要です。

ちなみに、あなたがあなたの研究テーマや調査目的を深く理解していないことは、とくにこのゼミのようにフィールドワークを行なう研究の場合、研究のスタート時点ではある程度しかたのないことです。この点は、各自がこれから半年から1年間で調査を継続し、ゼミに参加するなかで意識しながら努力して言語化して、把握していくべきことです。

(1-b)あなたの理解/相手の経験談のズレを保つ

あなた自身の研究テーマについての理解度や想像力を深め・広げていくには時間がかかるので、まずは謙虚になることと、関心をもって勉強することが重要です。ただし、文献などの小難しいコトバを自分のレジュメに写したようなことだけで固めてしまい分かった気になっていると、インタビュー調査で相手が話してくれたほとんどのことはあなたの視野の外の「関係なさそうなこと」としてスルーしてしまうことになるので注意。

インタビュー調査での禁じ手のひとつは、あなたが決めた狭い定義・範囲の型で相手の経験をどんどん編集して切っていくことです。それでは台無しで、わざわざ相手の経験談を聞く意味がありません。その人のさまざまな経験がその人の主観的にどのような意味をもっているのかが解釈できるような聞き取りデータを集めるのがインタビュー調査の強みです。

たとえあなたがあなたの研究テーマや、そのインタビューでのトピックを伝えていたとしても、相手にとってそのテーマやトピックをとらえる視野は、あなたのものと同じではなく、異なっていることの方が多い。相手の属性なりこれまでの人生経験なりがあなたとは違うことを考えれば、これは簡単に想像できるはずです。

「なんか話が逸れてるような気がするなあ」と思ったとしても、相手の話の逸れかた・トピックについての興味のもち方に注意深くなれば、聞くことの面白さが徐々に出てくるかもしれません。そうなってくると、インタビュー調査はうまく転がり始めます。無駄や脱線を知的に楽しみましょう。そして、そのトピックについてのあなたの理解と相手の経験談の内容とのズレに思える部分にこそ、研究上の発見へのヒントがあると思います。

つぎに(2)について。相手の立場・属性や気持ちに対する想像力をもちましょう。インタビューは緊張する。あなたの相手はあなたに協力してくれようとしている。その思いが真面目であればあるほど緊張する。何を答えていいかわからない。

(2-a)調査活動が相手にどうみられているか

あなたは相手に協力を求める。相手は親切心から承諾する。しかし、あなたの説明する調査目的は小難しいし、質問は漠然としていて何を聞きたいのかがわからない。でも、大学卒業のための宿題だというからちゃんとした答を話さなければならない。…これらの状態が、相手を緊張させる原因です。すでに改善すべきところは明白ですよね? しかし仮にあなたの調査目的の説明がわかりやすく、質問は相手に答えやすく具体的なものであっても、相手が緊張する場合があります。…それはあなたが大学生だからです。

「なんで私なんかに緊張すんの?」とか勘違いしないでほしい。「大学の宿題」に緊張しているのです。大学生の卒論や勉強について、自分も大学を卒業した人はあまり緊張しません。だけどそうじゃない人は「勉強のことなんだからちゃんと答えないといけない」と思い込む。正確な知識や正しい意見を自分が持っているかどうかわからないし、間違っていたら恥ずかしいし迷惑をかけるかもしれない。自分じゃなくてもっと的確な相手がいるんじゃないか。こういうプレッシャーを感じる人は珍しくありません。

正確な知識やちゃんとした意見ではなく、あなたの経験談を聞きたいのだ、ということはお願いするときに強調しておきましょう。(*なぜインタビュー調査にとって経験談をたくさん聞き取ることが重要なのか?このことについては別の文献を参照すること。)

(2-b)言語化するのは慣れない・難しい・めんどくさい

親しい人が相手だとインタビューする−されるの役割にスイッチしにくく、実は知り合いじゃない人の方がインタビューはやりやすいかもしれない。このことを、照れだとか気恥ずかしさとか、心理面から説明することもできますが、もっと根本的な要因があります。それは「自分のことや普段当たり前に過ごしてきたことを言語化し説明するのは難しいしめんどくさい」ということです。

特にあなたと日常的に接点がおおく、親しい間柄の人たちは普段のあれこれをいちいち説明する必要がなく、なんとなく共有し共感して過ごしていますから、わざわざ説明モードになったり、わざわざ「自分の経験」を言葉にして相手に伝えるということがとても不自然な負担に思えるのです。

逆に、あなたの知り合いではなく、あなたとは属性(ジェンダーや年齢や出身地、学歴など)が違う人を相手にした場合には共感ベースを期待できないので「説明しないと相手にはわからないよな」という前提を置いてお話しする構えが自然にできます。親しい人とそうでない人との違いはこの「構え」に入ってくれるかどうかの差があります。しかしどちらの人にしても「経験談」にしたって言語化して説明するのはむずい。何をどこから説明すればいいのか、判断するのが難しいからです。

仮にあなたが「あなたの大学生活を説明してください」とか「大学の勉強はたいへんですか?」と中学生インタビュアーに尋ねられたとします。答えることはできそうですが、何をどこから説明すればいいのかはちょっと考えますよね?

このことを乗り越えるやり方はあるのか?正解はわかりませんが、提案はあります。最初の質問を小さくしましょう。上記の中学生インタビュアーの質問は2つともまだ大き過ぎ、何が聞きたいのかよくわかりません。もちろんあなたは「大学生活って・・・1人暮らしのこととか、講義やゼミのこととか、バイトのこととか、友人関係のこととか、部活・サークルのこととか、いろいろあるけど何が聞きたい?」と親切に誘導してあげることができます。それは、あなたがインタビュー調査とはどんな進め方をするといいか知っていて、かつ、大学生活についてもある程度整理して把握していたからできることなのです。

ただし・・・以下のことに注意。私はよく、インタビュー調査の準備で大事なのは「質問を用意すること」ではなく「自分のテーマや、今回の調査目的についてよく考え、想像していくこと」だ、と言います。相手に出す質問は相手にとって話題に入りやすい入り口に過ぎません。あなたが小さな質問を10こ用意して行っても、あなたが入口から先の方向を予想していたり、相手が話す内容の思いがけない広がりに興味をもったりすることがないかぎり、絶っ対にインタビュー調査が面白くなることはありません。

相手の話す内容のなかに、さらに聞きたいことが見出せた場合、すかさず「いまのお話の中のxxxっていうところについてなんですけど・・・」と質問していきましょう。「一つの質問について、まとまった答えをもらう」という質疑応答のフォーマットよりも、相手の話の中に見つけたさらに詳しく聞きたい点を掘り下げていく「やりとりが盛んな会話」に近いフォーマットの方がインタビューは盛り上がりますし、データはたくさん取れるのです。

2025年10月2日木曜日

卒論タイトルを考案しよう

いいタイトルは、(すくなくとも教員からみて)なにをしようとしているかが伝わるタイトルであり、惹きのあるタイトルである。

惹きのあるタイトルはあるていどの慣れやセンスが必要なので置いておいて、伝わるタイトルにしなくてはならない。では、なにを伝えなければならないか?それは、研究テーマ、具体的な対象、調査方法である。この3つのほかに重要なものはない。そして、研究テーマと具体的な対象とを混同してはいけない。

なにについて調べているか?→これが具体的な対象である。その調査結果を通して、なにを理解したいのか?→これがテーマである。過去の卒論タイトルの具体例をみてみよう。

TRPGの楽しさと同卓者選び

簡潔だが、ここには対象もテーマも入っている。この人の調査したことはTRPGの同卓者選びだ。それを通してなにが理解できるのかというとTRPGの楽しさであり、これがテーマだ。このタイトルは「TRPGの楽しさを左右する重要な事項は同卓者選びなのである」という、著者の主張を簡潔に伝えているという点で優れている。

ひとりっ子の親子関係:周囲の人間を介したステレオタイプの影響

この場合はややわかりにくいが、対象はひとりっ子の親子関係で、テーマはサブタイトルそのままだ。収集された調査データはひとりっ子の親と子に経験談である。そこから、ひとりっ子への周囲のまなざしがどのように意識されているかを分析している。このタイトルもやはり、「ひとりっ子の親子関係には、周囲の人間のステレオタイプが影響する」という著者の主張を伝えている。

家事・育児に関する権力関係と意思決定プロセス:乳児を持つ夫婦とその家族を対象にして

この場合はなにが対象でなにがテーマか、もうわかりますね?「家事・育児に関する意思決定には、夫婦やその家族のあいだの権力関係が関係する」というのが著者の主張である。

さて、あなたはなにを調べていますか?なんについての調査データをあつめていますか?それを言語化したものが対象。それをとおしてなにを理解したいですか?あるいはあなたのレビューした先行研究にはどのようなテーマのものがありますか?そこからテーマがわかる。テーマと対象とをもちいて、あなたの研究での予想される結論や主張がわかるようなタイトルをつくりましょう。

なお「方法」については、とくに斬新な方法を工夫した、とか、先行研究とはまったく異なるアプローチによる調査だ、などアピールしたほうがよいことがあればタイトルに入れればよく、そうでなければマストではないと考えてよい。

2025年6月3日火曜日

プレゼンに対する質問・コメントの活かし方

プレゼン、スピーチへの質問・コメントを上手く活かし切る人は多くありません。もったいない。


1.そもそも質問・コメントとは

大前提ですが、質問・コメントは自分の研究をよくしていくために活かすものです。「その場で答えたり、お礼を言えたりすればOK」というものではありません。かんちがいしないように。

また、質問・コメントされた内容の意味がわからない場合、そこからなにも生まれません。わからない場合は意味を聞き返したりして、把握する必要があります。時間を浪費しないように。

ところが、質問・コメントをしてくれた相手の「意図」がわからない場合があります。そこまでは質疑応答の時間内でたしかめることは難しい。その場合は、あとでその人に直接1 on 1で聞くことや、ゼミでの確認をするといい。この先で役立つ多くの有用なやりとりができるはずです。

あなたの研究にとって質問・コメントは、その「意図」をめぐってやりとりすることにもっとも重要な意味があります。


2.質問・コメントを整理しよう

各々異なる角度からの質問・コメントをすべて受け止めて活かしていくことはできません。下手をすれば自分の研究の方向を見失ってしまいます。ここではどのように整理すべきかのヒントを示します。

以下のような質問・コメントは真剣に受け止めていく価値があります。(1)すれちがいタイプ、(2)答え合わせタイプ、(3)盲点指摘タイプ、です。

(1)すれちがいタイプ

質問・コメントの内容が、あなたの研究テーマや研究目的からズレている質問・コメントです。相手が教員(プロの研究者)の場合、基本的にはあなたの研究テーマや研究目的の伝え方がうまくいっていないことを示しています。【研究テーマの解説→関連する先行研究レビュー→研究目的】の部分を考え直し、よりていねい・的確に伝わるように組み立て直す必要があります。質問・コメントの内容そのものは、「なぜ、そのような理解のズレを生んでしまったのか」を考える材料であって、直接のアドバイスとは関係なしと判断すべきです。

(2)答え合わせタイプ

研究テーマや目的も相手によく理解してもらえていたうえで、現時点で抱えている問題点や、これからおこなうべき調査など、自分が課題として意識していたことを指摘された場合です。この場合は、自分の考え方が妥当だったんだな、という答え合わせができたということですから、自分が思った方向で研究を組み立てていっていいわけです。研究テーマや目的も相手によく理解してもらえているわけですから、追加の質問・アドバイスをもらいにいくとさらにいいかもしれません。

(3)盲点指摘タイプ

研究テーマや目的も相手によく理解してもらえていたうえで、自分が気づいていなかった弱点、つまりデータ整理や事例解釈のしかたや調査方法、これからの調査内容について考えが至っていなかった点についてアドバイスをもらえている場合です。これは今後の作業におおいに活かすことができます。たとえば、今回のスピーチで説明を省いた箇所が、研究全体でどのような重要な位置を占めているのか、これからの調査でなにに着目して調べていけばいいのか、などの理解へのヒントになります。経験を積んだプロの研究者の洞察で、自分自身が見えていなかった研究の意義や視点を教えてもらえたということです。

以上のようなプレゼン・スピーチに対する質問・コメントの受け止め方・活かし方は、卒業研究だけでなく、将来的にもすべての発表内容のバージョンアップのときに参考になるものだと思います。

そもそも、(1)(2)(3)のような整理ができる水準に達するまでには努力と慣れが必要ですが、それはいくらでもゼミで補ってください。


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(追記)

上に書いた質問・コメントのタイプは、あなたの研究の観点からのタイプわけです。このようなタイプ分けができたうえではじめて、質問者の「意図」レベルが把握でき、あなたの研究に活かせるやりとりの回路ができます。

2022年10月19日水曜日

「網羅的箇条書き」の作成:聞き取り調査後にやること(3年ゼミの場合)

 インタビュー聞き取り調査のあとに、どういう作業が必要なのかをまとめました。この場合、調査の現場ではメモをとり、調査協力者(話者)の許可を得て録音データがあるものとします。

1.網羅的な箇条書きの作成

自分の現場でのメモ書きをもとに、じっさいの話の流れ・順番にしたがって、箇条書きを作成する。

  • 話された話題を細かく分け、もらさず網羅的なものを作成するのが要点。
  • ひとつひとつの箇条書きは、単語ではなく2行程度の文で。内容が口頭で再現でき、かつみた人もあるていどイメージしやすい。
  • たとえば、1時間の聞き取り調査であるていど密な内容なら15-20程度の箇条書きになるはず。
  • 原則、録音データはこの時点で聞き直さず、自分の記憶にたよって作成してみること。もし1コマ分の時間を使っても思い出せないときは、いちど通しで録音データを聞きなおし(聞きながら文字起こしはしない!聞くだけ)、再度チャレンジすること。

2.前後のコンテンツの作成

以上の網羅的な箇条書きをつくったあと、以下のようにその前後のコンテンツを加えていく。

(1)この調査の目的

(2)聞き取りの日時、場所、話者のプロフィル

(3)網羅的な箇条書き

(4)この聞き取り調査からわかったこと、気づいたこと、考えたこと

なお、このとき(3)網羅的な箇条書きの内容を、3-5つのグループにわけ、それぞれのグループに見出し(なまえ)をつけておくとなおよい。

3.レジュメの作成とゼミでの議論

調査初心者の2年生のあいだは、上の2.のようなかんたんなレジュメを調査報告として、翌週のゼミで示せばよい。ゼミではおもに、網羅的箇条書きのそれぞれについて、調査にとってどのような意味があるのか、どの項目がより重要そうなのか、それはなぜか、などを議論する。

4.ゼミでの報告のあと

調査目的との関連で、とくに興味深い・重要そうな項目があれば、その箇所の録音データをもとに文字起こしをおこなう。文字起こしをおこなった内容のうち、とくに重要な部分には下線を引く。下線部の意味、ニュアンスをまず話者の主観的目線から説明し、つぎにこの卒論の調査目的にとってどのような意味で重要なのかを説明する。

ここまでの作業を2-3回繰り返せば、調査全体の目的が自分でだんだんコトバ化できるようになってくる。これでやっと、卒論調査レジュメらしい資料ができるようになる。

2022年2月2日水曜日

参考文献:メインをさがせ

卒業論文の参考文献をさがすのは、なかなか難しい作業です。J-Stageによる論文検索にせよ、大学図書館の所蔵図書のopacにせよ、検索ワードを考えるのがまず第1の壁…と思いがちです。

第1、第2…といくつかの工程があるのはそのとおりなのですが、検索ワードは第1の壁ではなく、その前にすべきことがあるのです。それらのすべきことの順を踏んでいけば、検索ワードは壁というより工程の一部になります。

検索され、選抜されて残った文献があなたにとって使いものになる文献になります。検索してすぐに釣れたものをリストアップしていくだけではまったく意味がない。ちゃんと自分の目と頭で選抜した参考文献リストを育てていきましょう。

以下では、ちゃんとした自分の参考文献リストをつくる正攻法を解説します。機械作業的な「リストづくり」ではなく、これまでのゼミでの議論をふまえ、卒論のほかの作業と並行してよく考えてはじめてできるものなのだということがわかるはずです。


テーマを2焦点型に

自分の研究の参考文献とは、自分の関心ある研究テーマと共通した関心のもとにある論文や書物のことで、先行研究と呼ばれます。研究テーマ、先行研究、研究目的の関係については、こちらを読んでおさらいしてください。

ゼミでは参考文献を、メインの参考文献・サブの参考文献というように呼んで大きく2つに分けて考えています。問題はメインのほうで、これはみなさんが自分の研究テーマについてよく考えている前提で、はじめてさがすことができます。

みなさんは、このゼミで社会学・文化人類学・地域研究などの分野にあたる論文を執筆することになります。研究テーマは端的に「タイトル」として表現されますが、タイトルにはたいてい主題と対象とがふくまれます。「なにを調べて(対象)・なにを考えたいのか(主題)」ということです。「なにを(対象)・どのように調べて(方法)・なにを考えたいのか(主題)」の場合もあります。

卒業研究をはじめたばかりの初期には、対象の情報しかないタイトルを作りがちです。「○○について」のようなものがその典型です(例:「弘前ねぷたについて」)。3年後期の終わるいまの時期には、それだけではなくなにを考えたいのかということ(主題)もふくめた【対象・主題】の2焦点型のテーマを考えてください(例:「弘前ねぷたの参加の構造と知識との関係」)。

一見してわかると思うのですが、【対象】のみの単焦点型テーマは3分間で浮かぶ思いつきと思い切りだけでできます。が、【対象・主題】の2焦点型のテーマは、自分がどのような調査をして、なにを解明したいのかをゼミで議論し、その結果を自分で言葉に結晶させなければできません。換言すれば、こうして練られたテーマは、誰かが見た場合、一読して内容の想像はなんとなくつくものの、抽象度があるので詳しい説明が必要なものになります。その説明文は将来、みなさんの卒論の冒頭部分になるのです。

さらに調査がすすんでいけば、これに方法や視点を加えた3焦点型のタイトル完成形に近づくと思いますが、これは4年生の夏休み明けの段階でしょう(例:「弘前ねぷたの参加の構造と知識との関係:女性・子供の視点および年代・町内間のちがいに着目して」)。これをみると、よりイージーな2焦点型は【対象・視点or方法】のほうではないか(例:「女性・子供の視点および年代・町内間のちがいかたみた弘前ねぷた」)と気づく人もいるかもしれませんが(笑)、【対象・主題】の2焦点型を作ることを強くおすすめします。なにを解明するためにその視点or方法なのか、を考えればあと一歩です。


メインの文献とは

さてここで、メインの参考文献とサブの参考文献の話に戻ります。メインの参考文献とは主題のための参考文献です。サブの参考文献とはところどころでピンポイントの情報・データを引用して使うための参考文献です。もちろん、メインにもサブにもなる文献もなかにはあります。

卒論の研究目的は、あなたが一方的に宣言するだけではダメです。その目的を掲げ、それを解明することにはどんな意味があるのか。メインの参考文献は、あなたの研究目的の意味づけをするために使います。

みなさんは、サブの参考文献はみつけることができます。理由はもうわかりますよね?単焦点型のタイトルにある「対象」を把握しているので、それを検索語にしてヒットした文献のなかから、タイトル、要旨、冒頭部分などに目を通して選抜すればいいわけです。

ひとりで考えるのが難しいのはメインの文献です。なにを調べようとしているのかがわかっていたら、自分がそれを通してなにを考えたいのかを考えます。そうしたゼミでの議論をふまえて、key wordsをいくつか抽出していき、それらを検索語の候補にすることが正攻法です。

メインの文献を探すとき、もうひとつ重要なのは分野です。社会学・文化人類学・地域研究などの分野から探してください。たとえば、上記のテーマ例で示したような関心をもった人なら、ねぷたや地域の祭りの観光客数を分析した観光経済学の論文を拾っても、メインの文献にはなりません。「分野ちがい」だと自分にとってハズレの文献を引く確率が大きくなります。


メインの文献を選抜する:論文篇

まず、論文検索です。最終的に3つのメイン参考文献を絞るために、J-Stageで検索するという想定でいきます。分野を指定したり、検索する雑誌を選んだりします。いろいろやってみて、使い慣れてください。考えられた検索語で検索します。あたりまえですが10くらいの論文をチェックしないと、最終的に3つに絞り込んだものが信頼できる参考文献とはなりません。先着三名様、でうまくいくわけがない。

検索してヒットした論文のタイトルをよくみて、内容を推理してください。そのうえで、key wordsと要約(abstract)をみましょう。abstractが英語で読みにくい場合には、最初の章のイントロダクションと研究目的の部分に目を通しましょう。そうして、はじめてその論文があなたのメイン参考文献として有力かどうか判断できます。ヒットした1本の論文の判断には、20-30分間かかるでしょう。

上記の作業をしても、判断が難しい場合があります。その場合は「保留」です。目を通し始めた1本目や2本目は判断が難しくて当たり前です。10本分目を通してみたら、あらためてそのなかの3本を選べばいいわけです(あたりまえのことしか言ってない…)。3本を選抜した場合、選抜した基準についての自分の主観(考え方)を、メモして記録に残して保存しておいてください。文献紹介レジュメの一部になります。

もし選抜に客観的基準があるならそれもいちおう記録に残しておいてください(あてずっぽうではなく根拠のある客観的基準があるなら、という意味です。ないならないでかまいません)。強いて言うなら、古いものより新しいもののほうが参考になることがあります(注意;古くてもクオリティが高く、新しくてもゴミなのもあります)。あまり古いものばかり拾わず、2000年以降のもの中心が無難かもしれません。


メインの文献をみつける:書籍篇

次に、大学図書館での書物の探し方です。opacを使うこと、実際に図書館を訪れないと内容をたしかめようがない点が論文とは異なりますが、基本的な考え方は同じです。図書館の書棚を前にしたとき、ターゲットの書物の周囲もみてみてください。検索語ではヒットしないけどもテーマには関わりのある書物がみつかるかもしれないからです。

論文でヒットしにくいテーマというものも存在します。そんなときは、その研究テーマがどのような小分野(たとえば、社会学のなかの文化社会学)に属するのか、webで調べるなり教員に聞くなりしてください。そして、その小分野についての日本語で書かれた入門書・概説書で、複数の著者によって書かれた新しめの書物をさがすことをおすすめします。

論文にせよ書物にせよ、末尾に参考文献リストが掲載されている文献が、卒論に使える文献です。参考文献リストが掲載されていない新書・文庫本などは、少なくともメインの参考文献にはなりません。さがしあてた論文・書物の末尾の参考文献リストは、あなたがさらに文献をさがすときの手がかりになります。

以上が、メインの参考文献をみつけていくための正攻法です。卒論の完成版では、少なくとも10の文献をリストアップするようにしてください。そのうちメインの文献は最小で3は必要でしょう。文献リストの様式などは、過去の卒論などを参考にすること。

2020年6月10日水曜日

短歌から社会を(その2;1960s-70s)

前に投稿した「その1」では1950年代が国立療養所にとって、そして国内社会にとってどのような時代だったのかについて述べました。国内社会は敗戦の混乱のなか新憲法が発布され(1946)戦後民主社会が息吹き、高度経済成長期へと入っていく時期にあたります。そのなかで、療養所という隔離社会内部でも各所の患者自治会の活動が活発化し、全患協が結成され「運動」が盛り上がりをみせるゴールデンエイジを迎えます。しかし他方、隔離政策を規定した「らい予防法」が旧法から新法に改定されたとき(1953)、その隔離政策規定について変更はなく運動はいったん挫折・敗北を味わったのでした。

岩波写真文庫『離された園』には、まさに1950年代央の療養所内のようすを伝える写真が多数収録されています。療養所のなかの社会も、外部社会との情報交信がテレビという視覚的メディアの登場によっていっそう高まったことが考えられます。同書のなかには、集会所の台の上に載せられたモノクロ・テレビの姿を数葉の写真のなかにみつけることができます。「予防法騒動」の字句もみつけることもできます。

さてではその後、療養所のなかの生活はどのようだったのでしょう。今回は「その1」で私の疑問として挙げておいた、1950年代以降の療養所内社会の変化に注意してまとめてみたいと思います。今週読もうとしている有薗論文[2008]論文は1960-70年代、先週読んだ坂田論文[2009]は1970-80年代の療養所をあつかっています。

有薗論文(3-1)によれば、全患協は1953年より施設運営のための事実上の強制労働に近い「患者作業」への反対運動を展開していました。かれらはストライキなどの戦術によって抵抗し、所内生活の改善を要求する一方で、対外的に関連諸機関への陳情もおこなったのでした。その結果、1960年代半ばになって厚生省が路線を変更し、療養所に職員が補充されることとなりました。施設運営に関わる諸々の作業も、多く新規雇用のプロパー職員によって担われることになったのです。また、1959年制定の国民年金法によって、翌1960年から療養所においても1級障がい者に障害福祉年金が支給されるようになりました。

ところで「らい予防法」が新法になった(1953)ことによる変化はゼロだったのか。かならずしもそうではありません。例えば、新法は施設長の懲戒検束権を廃止しました。これによって司法手続きを経ることなく所内決定で入所者の監禁・減食などの懲戒処分がくだされることは原則的にできなくなったのでした。しかし、やはりこの時期の療養所内の生活・入所者待遇をめぐる変化は「予防法の改定」を中心に多くを語ることには無理があり、全患協など運動全体のうねりのなかで理解すべきなのではないかな、というのが現時点での私の考えです。

有薗論文は、このような状況のなかで所内社会に格差が生じていたことを指摘します。つまり、年金を支給される者/されない者。そして、強制労働が減じたことによって所内生活にも多少の余裕ができ、軽症者や体力のある若い入所者は、高度成長真っ只中の「社会」の建設業に出稼ぎに通ったのでした。そうすると、所内の所得格差が生じるわけです。

『離された園』には園内作業に報酬が出るという記載があります。そこには「富の不均衡によって共同生活が乱れぬよう特殊技能にも高賃金を払わないのが原則」とあります。安く働いてもらう方便のようにみえなくもないですが、すでにここには所内に富の不均衡を気にせざるを得ない状況があったことがうかがえます。もっとも、所内の賃金を調整したところで、同書に掲載された写真の時期から10年も経たないうちに、1960年代になると有薗論文に書かれているように「外の社会」の建設業者からのお迎えのバスが療養所に来ていたそうですから、出稼ぎで稼ぐ人は稼いでいたので格差はいやがおうでも見えてきたのだと言えるでしょう。

そこで有薗論文が注目したのが、外に出稼ぎにいけない入所者たちを多く含んだ、所内の仲間集団による酒屋・賭博・ビニルハウスの製作と販売など、活発でときにやや破天荒な「経済活動」の展開でした。1970年代には高度経済成長も収束。その時代になるとそれまで出稼ぎに行っていた層もこうした活動に参加するようになります。有薗論文によると、一銭の稼ぎにもならないサークル誌などより、こうした稼ぐ活動はよほど活発だったようなのですが、これまでは積極的に注目されず(あるいは非公然活動としてなかば秘話とされ)、記録されてこなかったのです。

1970年代もすすんでくれば、療養所の新規入所者数も減り、退所する者は退所し、重症者や高齢者が所内に残り、療養所内人口構成の減少と高齢化がすすみました。社会的にも「予防法騒動」から20年の時間が経過して社会問題としての関心も薄れていった、坂田論文がハンセン病の〈終わり〉の時代と呼んだ時代になるわけです。

その後ーー現在にいたるまでに、ハンセン病の歴史にとって大きな出来事としては1990年代のなかば、1996年にようやく「らい予防法」廃止、ついで国賠訴訟が起こり、2001年に厚生労働省が原告団とハンセン病恒久対策について合意、2002年始めに熊本地裁で初の国賠訴訟和解が成立が挙げられます。われわれが最初に参考にした年表は、この時点で終わっています。

それからさらに20年が経とうとしている現在は、新規入所者数はほぼないまでに減少し、所内人口は超高齢化の時代を迎えています。国立療養所は一定の歴史的役割を終えつつあると言えるかもしれません。だからこそ、ではその歴史をどのような歴史としてふりかえるのかということは、その視点・視座によって異なる歴史化が可能ななかで、議論されるべきじゃないかと思います。

文献
有薗真代[2008]「国立ハンセン病療養所における仲間集団の諸実践」、『社会学評論』59巻2号、pp.331-348.
岩波書店編集部・岩波映画製作所 編[1956]『離された園』、岩波書店(岩波写真文庫188)
坂田勝彦[2009]「「終わり」と向き合うハンセン病者:過去の想起と共同性」、『ソシオロゴス』33号、pp.30-45.


2020年6月5日金曜日

論文をしっかり読む読みかた

実習の報告書(年末から年度末にかけて)、そして卒論(うちのゼミでは3年の後期から)と、大学でみなさんが課される「調査をもとにした作文」である論文を書くとき、かならず関連研究(先行研究)をレビューしなさい、という指導を受けます。論文を読むことは卒業までに避けて通ることのできないポイントです。ここでは、「ふつうの読書」とちがう「レビューのために論文を読む」ことについて説明してみます。

ふつうの読書の目的はみなさんがめいめいに決めればよろしい。レビューのために論文を読む目的はただひとつ。自分の研究の意味を、まず自分で確認し理解すること、これです。同じテーマについてほかの人が過去にやった研究内容をみて、自分のやることの意味を発見し、目的を絞りましょう。論文はあたらしい議論をつくるために書くんです。

しかし、人の書いた論文を読むのは慣れないと面倒なことです。小難しい論文が多い。理由のひとつは、人文社会科学系の論文の議論は必然的に抽象的な概念を使ったものになってしまうこと。もうひとつは、著者のなんとなくの癖や背伸びで小難しい表現を選んで書いてしまっていること。私は後者には陥らないようにしたいと思っています。皆さんもいま人のものを読むときはイラついていても、卒論を書くときは必要以上に小難しく表現することがよくあって、本人説明できるのかよ、と読んだ私が思ってしまうパターン、あるので気をつけて。

さて、前置きが長かったですが、論文を読むときに念頭に置かねばならないのは、

  • 著者に寄り添って読むこと(内在的読み)
  • 著者を突き放して読むこと(外在的読み)

これらふたつで、どちらともしなければ絶っ対にダメです。

自分と同じテーマの先行研究の論文を読もうとしている、という想定です。論文の著者と自分とが、テーマにたいするアプローチ、視点(目の付け所)、研究目的(明らかにしたい内容)などについてまったく同じということはまずありません。論文タイトルを見たら一見同じようにみえた論文も、読んでいくとちがいがみえてくることがほとんどです。かんたんに自分と「同じ」や「ちがう」を決めず「どの点が同じ」「どの点でちがう」という整理をすることが重要かと。

著者に寄り添って読むこと(内在的読み)。テーマに対する著者の視点や著者の設定した研究目的を前提にして、著者の意図にしたがってまずは内容を読解します。著者は自分の着目点、研究目的についてどのように意味があると考えているのか。なぜその調査方法、調査対象を選んだのか。歴史的時間軸が入った研究なら、なぜその時期を選んだのか。なぜそのデータあるいは事例を論文でとりあげているのか。データや事例の解釈はどうなっていて、それが議論や考察とどう関連づけられているか。

著者を突き放して読むこと(外在的読み)。テーマに対する著者の視点や著者の設定した研究目的を前提にして、自分の考えているテーマへのアプローチ、視点・視座、そのテーマについてわかりたいこと(研究目的の原型)などなど、自分の立ち位置との差異を意識しながら検討していく。著者の目的の設定には無理がないか。その目的がどこまで達成されているか(議論できているのか)。じゅうぶんな議論の根拠(データ)が示されているか。そもそも調査はじゅうぶんか、などに注意して読みます。じつはこうした、同じテーマの他人の論文の検討作業を通して、テーマに対する自分の視点・視座や研究目的が意識化され、絞られていくものなのです。

この数回分の実習でやろうとしていることは、著者に寄り添って読むこと(内在的読み)。前回、ちょっと混乱があったのだとすると、みなさんがすすめようとしている「内在的読み」に、われわれ教員の側が「外在的読み」を被せてコメントしていった(要するに、著者の叙述について批判していった)ためだと思います(反省)。教員はプロの研究者でたくさん論文を読んできましたから、内在的読み・外在的読みを同時並行してすすめていても、頭のどこかで整理できています。が、慣れていないみなさんは混乱するでしょう。しかし、これ以降は内在的読み・外在的読みということを踏まえて、どちらの眼もしっかりもって読んでいきましょう。

いまの時点でみなさんは、論文内容の難しさにひっかかっているのだと思います。だから、最初は同時並行ではなくまず内在的読みをして、それから外在的、という手順で考えましょう。いま読もうとしている論文[有薗 2008]を例にとってみます。レジュメにも記した通り、慣れないうちは以下の確認をしていくことから始めましょう。
☝「内在的読み」のための2段階
1)全体について
テーマの意味、視点と目的の設定の確認、要旨とkey wordsから全体の流れを想定
2)部分について
・不明な用語 … ①マークを入れて、②意味を考えてみる、調べてみる
・わかりにくい箇所 … ①マークを入れる、②意味を考えてみる
・個々の事例 … ①扱われている出来事のなりゆきをつかむ、②それを著者がどのように解釈しているかをつかむ
これらはノートにメモをとりながら、あるいは印刷した論文に書き込みをしながら、という具体的な手作業にしたほうが頭に入ります。

2)の「個々のデータ・事例」を除き、1)2)のすべては、論文のタイトルと要旨、そして論文の目的や方法が書かれたパート(第1-2章)について重点的に作業をすすめればいいでしょう。「個々の事例」については、いわゆる調査データを使った本論(第3-4章とか)です。さいごの章(5章)は、議論と考察なのできっと抽象的な難易度の高い文章が出てきますが、目的や方法のパートをクリアしていれば対応できるでしょう。

論文は、構成を押さえ、意味のある議論を作れているかどうかという全体をみます。これがいちばん大事。これの決め手は、目的の設定、その目的を、どのようなデータ(量的・質的;事例含む)を使って議論・考察し達成しようとしているかを読むことです。それをまず1)をすることによっておさえます。ところが1)の時点ですでにわからない語や文が出てくるでしょう。そこで2)です。

2)は、自分が知らないだけで辞書を調べれば5秒でわかるような言葉は、調べてください。ただし、初見だが字義と前後の文脈から意味が推量できるものはいちいち調べる必要はありません。そうすると、わからない語は減っていきます。問題は、辞書にない語やわからない文・フレーズが残ることです。これについては、マークを入れ、だいたいの意味を考えておきましょう。イザとなれば教員に聞けばよろしい。教員に聞いても、前回のように、辞書を引いたような答えを得ることができない場合がけっこうありますが、そのことを確認するのも意味のあることです。その場合には、それを疑問として持っておいて、論文を読み進めながら著者の用語法を解釈してゆくしかありません。

扱った論文[有薗 2008]での具体例で言います。要旨をチェックした時点で、「入所者が営んできた諸実践の生成と展開」「構造的制約の多い状況のなかで生を豊穣化しようとする」という2つのフレーズが「よくわからないもの」として残りました。わからないものは、なんとなく・とにかくわからないものとして置いておくよりも、どこが・なぜわからないのかを、できればつきとめておきましょう。前回、だれかが指摘してくれたように、前者の場合は「実践」という語の意味がわからないことが、このフレーズがわからない原因なのです。後者なら「構造的制約」でしょう。言葉そのものとしては、高校生までで「実践」も「構造」も、もしかしたら「構造的制約」も、どこかでみたことがあるかもしれません。しかし、各フレーズの意味は論文を読むまでよくわかりません。

要旨に書かれてあるということは、これら「実践の生成と展開」も「構造的制約」も、この論文にとって重要なことのはずです。なので「いったい、著者がこの言葉で意味しようとしていたことはなんなのか」という疑問をもちながら読み進める。じつは、疑問や予測をもちながら読むことは、論文を「内在的に」読むときにも必須の態度なのです。疑問や予測をもちながら読むためには、重要な疑問や予測を絞っていかねばなりません。上記の1)2)はそのための作業だとも言えます。また、疑問や予測をもちながら読み進めるということは「著者に寄り添って」内在的読みをすすめるために必要であると同時に、テーマに対する自分の視点や考え方への気づき(自覚化)を促します。これが自覚できて初めて外在的な読みが可能になることは言うまでもありません。

私がこの記事の冒頭で書いたレビューのために論文を読む目的「自分の研究の意味を、まず自分で確認し理解すること」とは、このことでした。

文献
有薗真代[2008]「国立ハンセン病療養所における仲間集団の諸実践」、『社会学評論』59巻2号、pp.331-348.

2020年5月30日土曜日

短歌から社会を(その1;1950s)

しらかば班をスタートするにあたり私は、(1)ひとまず教材としてハンセン病概史の教科書的な年表を用意し、これをわれわれの視点で解説することや、年表に加筆すること、(2)短歌作品をとおして入所者の主観越しに療養所内の社会・人生に迫ること、療養所の内と外との関係に迫ること、のふたつを提案しています。

前回の実習では、1950年代はじめ(1951)に患者自治会の全国連合である「全国らい患者協議会(全患協)」が結成されるなど、1950年代は入所者のあいだでの運動の盛り上がりが見られた時期であり、ハンセン病と療養所とにとってひとつの転換期、そして最盛期だったのではないかということを伝えました。少なくとも、われわれの使った教科書的な年表には1953年の「らい予防法(新法)」制定については、隔離政策の継続という面だけ記載され、人権を無視した所内の処遇の見直しの面は伝えていません。それがどれほどの「見直し」であったのかは私はまだ知らず、調べてみる必要がありますけども。

つまり教材年表のなかでは、20世紀初頭の旧法から世紀末の廃止まで一貫した隔離政策の継続が強調されています。これは事実にはちがいありませんし、闘いの歴史をまとめる方針で編まれた年表としては当然です。1953年の新法による隔離政策の継続はかれらにとって「それまでの運動の敗北」だったのでしょうから。他方、所内社会の生きられた歴史に注目するわれわれは、たとえば1950年台につくられた短歌を解釈するときには、この年代の所内運動の盛り上がりや新法制定後の所内生活の諸々の変化などにも注意を向けるべきだろうと思います。だから、私がいま個人的に知りたいなーと思うことのひとつは、この1950年代の療養所内の生活変化の詳しい状況です。

さて、このことに関連して、ここではハンセン病に関する年表だけからは見出せない現代史の背景をもう少し見ておきましょう。当時は現在とちがい、療養所内の入所者(患者)数と医療スタッフの数とでいえば、圧倒的に前者が大きく、入所者自治会が声を大きく主張すれば医療スタッフも厚生省(現厚生労働省)も無視するわけにはいかないという力関係を作っていけたのだと思います。もちろん1950年代以降のMLT国際らい会議、ローマ会議、WHOなど国際社会の動きの影響も関係しているでしょうし、運動を支援した外部の勢力もあったことが考えられます。また国内では、1951年にサンフランシスコ講和条約が調印され、翌年発効してからは労働争議が世の中全体にその波紋を広げていました。1955年には与党によるいわゆる保守合同があり、民間6単産(炭労・私鉄・電産など)労働者によって春闘が開始されます。

一般に、日本の高度経済成長は敗戦後10年の1955年から、第一次石油危機の1973年までとされています。これが始まった背景にはアメリカの発注を受けて朝鮮戦争(1950-)のための軍用品を生産・輸出したことによる特需景気があります。1956年度の経済白書は「もはや戦後ではない」と謳いました。高度成長のなかで、それまでの農村-都市人口移動による都市化には拍車がかかり、給与所得者の所得上昇によるテレビ(モノクロ)・洗濯機・冷蔵庫の家電3品目が「三種の神器」として各家庭の憧れの的となり、日本社会は「大衆消費社会」に移行します。NHKと日本テレビが日本国内で初めて放映を開始したのが1953年です。

ちなみに、TV放映が開始するまでニュースは通常ラジオ、新聞、そしてニュース映画という媒体でアクセスできるものでした。1940年代までのニュース映画は映画館に行って観るものでした。ニュース映画は新聞社の制作でしたが、戦時中には政府の検閲がかけられ戦争の宣伝に使われました。全国の療養所にはふるーい映写機があり(青森市の療養所の資料館にも展示されています)、往時より映画鑑賞の催しがあったようですが、それが戦中からのものであったのかについては私はまだ知りません。

というわけで、こうした国内の時代の雰囲気は、隔離された小社会である1950年代の療養所内の人びとにも、新聞・ラジオ、映画、そしてテレビを通じて知られていたはずです(この点、詳細は史料検証すべきですね)。前述の労働争議の盛り上がりも、TVニューズ番組の映像を通して視聴されていたはずですね。国内メディアによって報じられたこうした全体社会の状況は、当時の入所者の方がたにはどう受け取られていたのか。「らい予防法(新法)」制定についても、所内の人々はメディアを通してと、自治会を通して、2つの経路から聞いたのではないでしょうか。こうしたことを、みていければ興味深いことだなと考えています。

1950年代の歴史的な映像は、Youtubeなどの動画サイトでみつけることができます。試しにいろいろ検索してご覧なさい。また、参考書『離された園』は、まさに1950年代の全国の療養所のすがたを捉えていますので、上記のことを念頭に写真をみていきましょう。

次回も扱う坂田論文[2009]が対象としているのは、盛り上がりの1950年代を経て、新法制定後20年経過したあとハンセン病の「終わり」を迎えた時期です。この視点も教科書の年表には欠けているわけですが、それはまた別の記事で。


参考文献
岩波書店編集部・岩波映画製作所 編[1956]『離された園』、岩波書店(岩波写真文庫188)
坂田勝彦[2009]「「終わり」と向き合うハンセン病者:過去の想起と共同性」、『ソシオロゴス』33号、pp.30-45.
南日本放送ハンセン病取材班 編[2002]『ハンセン病問題は終わっていない』、岩波書店(岩波ブックレット567)
安場保吉・猪木武徳 編[1989]『高度成長(日本経済史 8)』岩波書店

2020年4月16日木曜日

テーマ着想の経緯:自分の関心を掘り下げる

先日の課題では、(1)研究テーマ解説 と(2)関連文献の紹介 とをまとめてもらいました。卒論の基礎になる部分の下書き、その第一歩といったところです。これから2ヶ月程度でこの下書きを深め、広げていきます。

教師から押し付けられたレポートのテーマとちがって、卒論のテーマは、自分なりにこだわった説明と、専門的な説明ができなければダメです。およそ1年半かけて作り上げる卒論のような長距離走は、ほんとうに関心が持てるテーマでなければ難しいし、勉強して専門的な知見を盛り込まなければ卒論としては認められないからです。

そこで今回は、前回の課題を土台にして、自分の関心を掘り下げていく作業をすすめてもらいます。これを仕上げてから、第1回のゼミに入ります。やってもらう作業は以下のふたつです。

(A)テーマ着想の経緯を説明。なぜそのテーマが興味深いのかを、実際のエピソード・事例や、実際にあったことでなくても創作のエピソードや事例で説明する。(1,000〜1,200字)
(B)テーマについての自分の立ち位置を説明。紹介した文献は、同じテーマについて研究されている。それらは自分の研究となにがちがうのか。これを説明する。(1,000〜1,200字)

このふたつを説明しないと、人はあなたの研究の話に興味をもってくれません。そして(こちらのほうが重要なのですが)このふたつの作業を通過しないと、自分でもなにをやりたいかをあまり理解していないまま、長期戦に突入することになるのでツラくなり、続きません。

逆に、このふたつの作業をやっておくと、まず、自分の関心が絞れてきます。最初に設定するテーマはたいてい「大きすぎて卒論では手に負えない」という問題を抱えています。たとえば「これからの環境問題について」とか「青森県の地域活性化について」とか。それらの大テーマのからさらに一段階や二段階、絞り込んでいかなければ卒論にとって適正な大きさのテーマになりません。

(A)は、先日の(1)研究テーマ解説をふまえて、そこで解説されたテーマは、じっさいの日常のなかではどのような社会現象としてあるのかを説明します。他人に説明するとき、抽象的なコンセプトはまとめて把握したり、いわゆる掴みとしては有効ですが、ていねいに説明するときには具体例を挙げることが有効です。具体例を挙げ、なぜそれが興味深い現象なのかを説明します。

(B)は、先日の(2)関連文献の紹介をふまえて、自分の関心あるテーマにそれぞれの文献がどのような立場からアプローチしているのか、それは自分の関心とどのように違っているのか(まったく同じ、ならあなたの卒論は必要ないかもしれない)、なぜその文献が重要だと考えるのか、などを説明します。

これらは、前回の文書ファイルに上書きするのではなく、別のファイルに改めて作文して下さい。そして、作文したあとに、前回のものから研究題目の変更の必要性を感じたら、題目は変更して下さい。

2018年11月24日土曜日

公的統計資料・報告書リンク集(その2)

もしかしたら社会学系の卒論に使うかもしれない統計データのリンク先。その1はこちら

2018年11月14日水曜日

卒論企画書(第1期)の執筆要項

1.研究テーマ(15〜20字)Theme of the reseach8-15 words
 卒論のタイトルをイメージしてください。よいタイトルとは、①どんな社会現象(対象)を調べるのか、②それを通してなにを考えたいのか(主題)、の2つが分かりやすく表されているものです。過去の卒論の例を参考にすれば、よいタイトルとそうでないタイトルがどんなものか、分かるかもしれません。
 ただし、それは一発で、かんたんにできるものではありません。最初に仮のものを作っておき、企画書のほかの欄をすべて書いてしまってから、もういちど考え直して作ったもののほうが、よいでしょう。制限字数内で熟考してください。

2.研究テーマの解説(200字程度)Description of the themeNot less than 70 words
 卒論には読者がいます。タイトルを読んだだけでは、研究テーマの意味はすぐに分からないので、テーマを他人に分かるように解きほぐして説明してください。
 研究テーマにとって重要な言葉(キーワード)があれば、それが何を意味しているのかを説明する、どんな社会現象あるいは社会集団(対象)を調べるのか、その社会現象や社会集団(対象)はどのような性質を持っているのか、それを調べることを通してなにを考えたいのか(主題)を説明する、などです。

3.研究テーマの着想の経緯(200字程度)How did you find the concept of this research?
 なぜこの研究テーマで卒論に取り組もうと思ったのか、なぜこの研究テーマに興味をもったのか、自分のこれまでの経験や知識から、きっかけやいきさつを説明してください。例えば実習のなかにきっかけがあったなら、それがどんなきっかけで、なぜ興味をもったのかを説明してください。

4.研究テーマに関する先行研究の紹介および問題点(400字程度)Litarature reviewnot less than 140 words
 自分の研究テーマについて、重要な先行研究(社会学か人類学の論文あるいは書籍)を3点、紹介してください。そのテーマにとってそれらの先行研究がどのように重要なのか、それぞれどのような視点、側面、方法からアプローチしているのかなど、特徴を捉えた紹介をしてください。また、どのような問題点をもっているかということを述べ、そこを自分の研究が克服するのだと言えると、もっとよいでしょう。

5.研究の目的(200字程度)Purpose of the ResearchNot less than 70 words
 研究テーマは大きなものですが、そのすべてをカバーするのは卒論では通常は難しいです。先行研究で明らかになっていることを踏まえながら、自分の研究の目的を絞り込んでください。

6.調査の対象と方法(200字程度)Objects and methods of the researchNot less than 70 words
 研究目的に沿って、妥当と思われる調査対象と方法とを設定してください。なぜその対象で、なぜその方法なのか理由が分かる書き方をしてください。文書調査とインタビュー聞き取り調査、質問票調査とインタビュー聞き取り調査、観察調査と・・・のように2つ以上の方法の組み合わせを推奨します。

7.この研究の社会的あるいは学術的意義(200字程度)Expected social or academic impacts
 研究の結果が、誰にとって、どのように活かしうるのかという社会的意義を書いてください。あるいは、先行研究になかったこういう発見・議論ができるんだ、という学術的意義を書いてください。

8.具体的な調査内容(400字程度)What will be elucidated, and to what extent and how will it be pursuedNot less than 140 words
 先に述べた調査対象・調査方法によって、具体的にどのような調査をおこなうのか、目的のどの部分、どの側面が明らかになるのか、分かるように書いてください。

9.予測しうる結果(300字程度)Expected result of the researchnot less than 70 words
 調査の結果、どのようなことが分かりそうなのか、現時点でイメージできる結果を教えてください。

10.調査のスケジュール(第1期は、2019年01月07日まで) Schedule
 これまでに書いたことに乗っ取って、なにを、いつまでにやるか、が分かる具体的なスケジュールを組んでください。ちなみに、冬休み明けまでに、卒論調査の3分の1〜半分が終わっているという目標です。

2018年11月8日木曜日

コース締切までにやらなければいけないこと

コース締切まであと1ヶ月。それまでに、文章は下手くそでもいいので、卒論をさいごまで書き上げることが、とにかく最優先です。ゼミと卒論面談では、私もその方向でみなさんをサポートします。

コース締切から学部最終締切までの1ヶ月は「書き直しの期間」です。書き直さずに提出できる卒論はありません。書き直しの時間がなければアウトです。というわけで、これから1ヶ月は「書き上げモード」、それから先のさいごの1ヶ月は「書き直しモード」です。

もちろん、なんでも書けばいいというわけではなく、筋を通したものを書いてもらいます。発表会前のゼミでお渡ししたチェックリストがありましたが、あの各ポイントをクリアすることを要求します。以下に一部改訂したバージョンを再掲します。

いちばん時間を割いて頑張るべきなのは調査データを使って書いていく本論部分です。まだ1章分(第3章のみ)の人が多いし、その1章分についても、データをぜんぶ出し切っていない人もいる。

サボらず、がんばって日々作業をすすめてください。作業をすすめない人は、サポートのしようがありません。


1.全体
  • 全体は4部構成、本論部分は2章以上であること。本論が1章だけのものは認めない。章や節のタイトルは、よく考えてつけられていること。
  • 「本論」にあたる章には、かならず各章の冒頭にリード文を載せること。
  • 本論部分の各章(第3章、第4章など)が、それぞれ卒論全体の目的(問い)を部分的あるいは段階的に明らかにしていき、それを最終章でまとめて議論する、という全体構成ができていること。(末尾の全体構造見取り図も参照)
  • 参考文献リストが末尾につけられていること。

2.部分
  • 研究の目的がしっかり書かれているか。タイトルをほぼ繰り返しただけになっていないか。
  • 先行研究レビューはなされているか。
  • 調査方法と調査の対象は、なぜその方法と対象なのかという理由が書かれているか。
  • 本論にあたる章で、データの図表について、説明文はきちんと書かれているか。☞ 図表の解説を作文する
  • 本論にあたる章で、観察事例について、あるいは事例の語り・対話について、説明文はきちんと書かれているか。☞ 事例の解説を作文する

3.細部
  • 章と節の番号が、正しく付けられているか。(節番号が飛んだりしていないか)
  • それぞれの図表や事例には、①表3-1.表3-2....、図3-1.図3-2....、事例3-1.事例3-2....のような番号が順に振ってあるか。また、②それぞれの図表、事例にはタイトルが付けられているか。
  • 段落、文が中途で尻切れになっている箇所がないか(絶対にダメ)。
  • 意味が他人に通じない文章(つながり)、文がないか。
  • 参考文献リストの書式は揃えられているか、順番はきちんと並べられているか。本文中に引用されている文献はひとつ残らずリストに記載されているか。


卒論(論文)は、重要な問題について、社会学・人類学の視点を使って、実証的に(データを使いながら)人を説得していく文章です。データと論理でできている文章です。

文章ヘタクソでも「書き上げモード」で、とにかく一回さいごまで書くのは、自分で自分の卒論全体の論理構造を把握するために必要なのです。いまは、そのためのタイムリミットぎりぎりです。前回ゼミで配った卒論の全体構造についての見取り図も、再掲します。


2018年10月9日火曜日

地域社会学 2018

2018年度の地域社会学(院)は、以下のようなことを勉強します。基本テーマは「移動」です。
  • 近代が可能にした地域移動、社会移動は・・・
  • ・・・政治経済のあり方とどう関係してきたか
  • ・・・地域社会や家族とはどう関係してきたか
  • ・・・しごと、労働、働き方とはどう関係してきたか
  • これからの移動の傾向と地域社会・家族との関係はどのようなものになるか

シラバスにあるとおり、論文6-7本分ほどの内容を基礎知識とともに平易に噛み砕きながら学び、そこから議論する力、まとめて書く力をつけていきます。

知識をインプットするだけじゃなく、議論したり書いたりのアウトプットをしていくと身に付いたものになります。「書く」ほうは、4−5回、講義での議論の内容に関係した小レポート(A4紙1〜2枚)を出します。

労働法を専門にしている受講者の方が2人いらっしゃるので、その知見も活かしていただいて議論が発展すればいいなあと思っています。よろしくお願いします。

2018年9月30日日曜日

伝統家族(イエ)と近代家族

近代家族とはなにか。例によって「社会学のつかう概念を憶えるには、その対になる概念とセットで」。近代家族の対となる概念は伝統家族です。両者がどのように区別されるかを説明できればひとまずじゅうぶんでしょう。

前近代の伝統家族から近代家族への変化はどのような変化だと思いますか?この質問、高校生や大学1年生にすると、返ってくる答えは「大家族から核家族への変化」です。その意味するところは「メンバーの人数がコンパクトになった」というていどのものかもしれません。ではなぜ、少人数化したのでしょうか。理由があるはずです。

伝統家族はイエ制度のもとにあります。イエは家業・家財・家系のセットだと考えてください。家業は、農漁業や小商業的なものを想定しましょう。伝統家族は職住一体で、いっしょに働くメンバーといっしょに暮らすメンバーとが同じです。他方、都市化とともに発達した近代家族の典型は、職住分離で、通勤するサラリーマンと専業主婦、その子どもからなる核家族です。

直系制と夫婦制という区別のしかたがあります。伝統家族は直系制をとり、家財・家業を継承するタテのライン--家系--を重視します。家系図を書いて表現するアレですね。一方で近代家族はこのタテのラインへの意識は弱く、継承する家業・家財をもたず一代限りで解散する場合が多いのです。・・・というと、ちょっと大袈裟かもしれませんが、近代家族ではせいぜい顔見知りの親・子・孫の三代が、別居しながらも行き来して親密な関係を保つという程度です。直系制の伝統家族では「ご先祖様」という、直接顔見知りでない人たちともツナガリを意識していたのです。

伝統家族は家業(生産)のための結合集団という性格をもちます。家業の生産性が安定しなかった前近代においては、血縁者以外のメンバーもイエの成員になっていました。その意味で、「直系制」と言われたときわれわれが直観でイメージするのと異なり、伝統家族に血縁主義は比較的弱く、近代家族こそ血縁主義が強いのです。近代家族の結合原理は家族愛、すなわち夫婦間の愛情や親子間の愛情であるといわれます。

また、社会学には定位家族(family of orientation)と生殖家族(family of procreation)という概念があります。定位家族は自分が生まれ育つ家族のことを言い、生殖家族は夫婦が子どもを育てていく家族のことを言います。ある人(ego)は定位家族を選べませんが生殖家族は結婚相手や子どもの数などさまざまなことがその人の選択のもとにあります。

伝統家族はこれらの2つの機能は一体でしたが、近代家族は両者を切り離したといえます。近代家族は職住の分離、そして定位家族と生殖家族との分離ということがその特徴としていえそうです。

2018年5月28日月曜日

卒論構想発表会レジュメ 条件チェック

構想発表は、指導教員やゼミ生以外から意見やアドバイスをもらう場。自分のやろうとしている調査の目的や、これまでの調査でわかったことを的確に理解してもらわないと、使えるアドバイスはもらえない。

1.はじめに
  • 研究関心を自分の言葉で説明している、あるいは、この研究の着想に至った経緯が書かれている
  • 研究テーマ(社会現象)について、世の中で起きているどのようなことなのか、それをみていくことを通してなにを考えることになるのか、かみくだいて説明がある
  • 研究テーマについて、これまでにどのような研究があったかが紹介されている(先行研究レビュー)
  • 研究テーマについて、自分の仮説が書かれている
  • 仮説についての予測される答えのようなものも、記されている
  • 研究の目的が書かれている

2.対象と方法
  • なぜその人たちを調査対象とするのか、テーマや目的と関連させた説明がある
  • なぜその方法を選んだのか、テーマや目的と関連させた説明がある

3.本論(データの説明)
  • ここ(この章)で使ういくつかのデータが、どんな目的で取られたデータなのか、その調査の目的(小目的)が書かれている
  • その小目的と、研究全体の大目的(1.はじめに)との関係が書かれている
  • それぞれのデータ(図表や事例)が、なにを説明するためのものか、書かれている
  • 図表については、別紙「図表の解説を作文する」の条件を満たしている
  • 事例については、別紙「事例の解説を作文する」の条件を満たしている
  • いくつかのデータを説明したあと、小目的と照らし合わせて分かったこと、および予測していたことと違った結果についての考察が書かれている

4.これから先の調査予定
  • 1.で示された目的全体と、3.のこれまでの調査で分かった部分があり、残った明らかにすべきどのような部分が、この調査で分かる、という説明になっているか
  • スケジューリングは妥当か

参考文献リスト
  • 卒論集に倣った書き方にしてあるか

2018年4月6日金曜日

大学院生のみなさんへ 2018

研究の相談(主査・副査)については、以下を踏まえてください。

  • 相談内容は、約15分で説明できるようにしておいてください。面談全体は基本的に最大60分間だと考えましょう。
  • 面談の終わりには、5分間、今回面談内容のまとめ、次の面談までになにをやってくるか、などを確認するクセをつけましょう。
  • こちらからの呼び出しは、緊急のとき以外は基本的にしません。みなさんのほうで3日前までにアポを取ってください。このときに面談内容をあらかじめ「***について」と知らせてくださると(あるいは事前に添付ファイルでレジュメを送ってくださると)より効率よい面談ができるでしょう。

主査担当の方の「特別研究」面談についても、上に準じます。(ただし、時間は90分間です。)

2018年4月2日月曜日

2018 農村社会史:参考文献

2018年度前期の院「地域社会学」の参考文献です。02〜13それぞれの数字は講義回をあらわし、それぞれの講義回での主な文献をしめしています。

02
NAKANE Chie[1967]Kinship and Economic Organization in Rural Japan.(London School of Economics Monographs on Social Anthropology No.32)The Athlone Press. chap. 3 ‘Analysis of local corporate groups within a village’, pp.82-149.

鳥越皓之[1993]『家と村の社会学(増補版)』、世界思想社 第Ⅰ章1節「家と構成員」、pp.3-25.

03
福武直[1949]『日本農村の社会的性格』東京大学出版会 第二部第一章「東北型農村と西南型農村」、pp.67-115

04
佐藤(粒来)香[2004]『社会移動の歴史社会学:生業/職業/学校』、東洋館出版社 第6章「都市-農村関係の変容」、pp.187-248

05
安場保吉・猪木武徳 編[1989]『高度成長(日本経済史 8)』、岩波書店 第6章(安場保吉)「歴史のなかの高度成長」、pp.273-309.

06
佐藤(粒来)香[2004]『社会移動の歴史社会学:生業/職業/学校』、東洋館出版社 第2章2節「日本の〈移動〉研究」、pp.38-55.

07.
佐藤(粒来)香[2004]『社会移動の歴史社会学:生業/職業/学校』、東洋館出版社 第3章2節「農村から「職業の世界」へ」、pp.77-90.

09-10
見田宗介[1979]『現代社会の社会意識』、弘文堂 「まなざしの地獄:現代社会の実存構造」、pp.1-57.

11-12
奥井亜紗子[2011]『農村-都市移動と家族変動の歴史社会学』、晃洋書房 第3章「戦後移動エネルギーの蓄積:中農層の教育熱」、pp.101-114.

13.
日本村落社会学会編[2000]『日本農村の「20世紀システム」生産力主義を超えて(年報 村落社会研究36)』、農山漁村文化協会 (川手督也)「農村生活の変貌と20世紀システム:新しい変革主体としての女性の登場と家族・地域社会の変容」、pp.118-149.

恩田守雄[2006]『互助社会論:ユイ、モヤイ、テツダイの民俗社会学』、世界思想社 第3章3(2)明治以降の互助組織の変遷:近代から現代へ(3)「現代の互助組織とボランティア社会」、pp.216-237.

2017年12月27日水曜日

事例の解説を作文する

観察、聞き取り調査、出来事の詳細などについて、自分が扱いたいものごとの現実でのあらわれかた、聞き取りデータのなかの語られ方(じっさいの語りの一部分)など数量化して示すことの難しいものごとや語り手の意識を、事例として示します。事例を示すことのメリットは、現実社会やそこに生きる人の手触りある質的なデータを生き生きと示せることです。

事例は基本的にどのような示しかたになっているか、よい事例の示しかたがどんなものかについては、なんでもいいので事例が載っている社会学・人類学の論文をみてみることが必須であり近道です。講義や実習、ゼミで参照した論文、卒論集、参考文献で自分がみた論文の事例など、数多くの事例の示し方をみておくと自分で事例の入った論文を作るコツを掴めます。

使用上の注意点:
以下の①〜⑥をひととおり読み、全体の工程を理解しイメージしてから作業をはじめる。全体を読まずにいきなり①からやっていかないこと。よくわからないときには、ゼミや実習などの友だちに聞いて相談しましょう。

① どのようなインタビュー聞き取り、あるいはどのような観察調査をして、それらのデータを得たのか
② そのデータを集めた目的、どのような結果の予測や仮説(見通し)があったのか。なにを分かりたいためにその聞き取り/観察をしたのか
③ 得られた聞き取り(語り)データ、観察データのなかのどのような部分を抜き出して囲い内に示したのか、その抜粋の方針を書く。囲い内にアンダーラインを施した箇所があれば(あったほうがよい)、どのような基準に基づいてアンダーラインを施したのか、その着目点を明らかに
④ 事例データ(囲いの中)について、詳しく読解する。テキストデータの表面を読んだだけでは分からないニュアンスなどの補足解説。たとえば聞き取りデータなら、囲いの前後でインタビュアーとのこういうやりとりがあって、そのあとでこの語りが出てきたという前後文脈説明、あるいは語りのなかに出てくる言葉で読者は分からないローカル・タームや人物・場所の解説
⑤ 個別の囲いデータ(観察/聞き取り)についての説明を書き、複数の囲いデータについて同様に説明したあと、それら複数の語りデータ、あるいは語りデータとほかのデータとの組み合わせから、総合してなにが言えるのか
⑥ 当初②の結果予測・仮説および着目点に照らしてみれば、どうだったかという考察

これらの①〜⑥についてのていねいな解説文を作文しましょう。

図表の解説を作文する

質問票だけではなく、観察、聞き取り調査についても、自分が扱いたいものごとの傾向を示すために、数量化してカテゴリ別の分布を示すことのできるデータを図表化します。図表化することのメリットは、指摘したい傾向が「一目瞭然化」できることです。

図表は基本的にどのような造りになっているか、よい図表がどんなものか、については、なんでもいいので図表が載っている社会学の論文をみてみることが必須であり近道です。講義や実習、ゼミで参照した論文、卒論集、参考文献で自分がみた論文の図表など、数多くの図表をみておくと自分で図表を作るコツを掴めます。

使用上の注意点:
以下の①〜⑥をひととおり読み、全体の工程を理解しイメージしてから作業をはじめる。全体を読まずにいきなり①からやっていかないこと。よくわからないときには、ゼミや実習などの友だちに聞いて相談しましょう。

① どのような観察、質問票、あるいは聞き取り調査をして、それらのデータを得たのか
② そのデータを集めた目的、どのような結果の予測や仮説(見通し)があったのか
③ データをどのように整理・加工してその図表ができたのか
④ その図表をどのようにみればいいか、どこになにが書いてあるか、みたい現象についてどのような傾向が図表のどこから分かるか(図表から誰もが直接読み取れること)
⑤ 図表からわかる傾向は、なぜ出てくるのかという(図表から直接読み取れない)解説
⑥ 当初②の結果予測・仮説に照らしてみれば、結果はどうだったかという考察

これらの①〜⑥についてのていねいな解説文を作文しましょう。

2017年11月29日水曜日

ヒントをどのくらい拾えるか

じっさいに実習やゼミでみなさんのようすをみていても分かりますが、3年生は、不安が大きくなってくる時季かと思います。年明けから春休み前には、就活と卒論という、二大難事業が待ち構えているからです。どちらも、勉強(情報収集によって準備をすすめる)をすればするほど、不安は小さくなります。この場合の勉強でやることは、まず図書館・インターネット・雑誌や新聞、そして人に会って話をすることなどによる情報収集と、自分なりの整理のことでしょう。

この、①情報収集と、②自分なりの整理との2つは、地味だけど、どんなときにでも応用が利く基本中の基本作業で、これができる(習慣化されている)とできないのとでは大違いなのです。以下の話も、読み進んでいくとこのことに関連してきます。

なにをしていいのか分からない、ということ自体が悩みになっている人が多いようですが、結果なにもしないのではムダな時間です。なにかやるしかないでしょう。なにかやってもなにをしていいのか分かるようにはならないという人は、やる量が足りないか、やり方がちょっと的外れか、どっちかです。

大学受験のときに「傾向と対策」を経験した人も多いかと思います。情報収集によって出題形式や傾向を分析し、それに合わせた練習を重ねる。そのガイドが参考書・問題集、高校や塾や予備校の教員だったはず。就活も卒論も、大学受験とのちがいは目的とガイドを自力で探さなければいけない、という点です。

就活については大学のキャリアセンター、卒論についてはゼミ教員(私)がガイドとして存在します。しかし、この人たちはあなたに逆に「どういう方向に行きたいの?」「どういうことに関心があるの?」と聞いてきます。かれらはあなたの目的とニーズに合わせて、かれらの専門性を発揮したガイドをくれます。

大学3年生で自分の関心、自分の行きたい方向を自分で掴むのはかんたんではないでしょう。でも特殊な能力は必要ありません。やり方としてはやっぱり、王道の「①情報収集と、②自分なりの整理」しかないのです。書かれた情報や人と話した情報の収集(input)を着々とすすめることと、それを整理してノートに言葉や図表にしておくこと(output ver.1)。これを自分なりに考えながらやることと、さらに、ノートに書いた内容をもう2、3歩すすめて「人に説明して、分かってもらえる形」にしていくこと(output ver.2)。そういう地道な作業を繰り返している人はいろいろできるようになっていきます。

なにができるようになるかというと、自分の目的(やろうとしていること)やニーズ(なにを知りたいか、助けて欲しいか)を相手をみて表現できるようになるので、ガイドを上手く使えるようになって、ますますinputの要領も掴めるし、outputも上手くなります。俗に言う「コミュニケーション能力」です。このことが卒論にも就活(試験・面接)にも有利にはたらくのは明らかです。ばくぜんと不安を抱いて時間をすごさないで、そういう努力をしてください。「言われたことをやる」姿勢だけでは、じつはどこにも行き着きません。そもそもあなたたちが考えを示さない限り、こちらからもなんのガイドしようもないのです。

5年以上前の話です。当時、勤めていた大学で知り合った大学生が就活で悩んでいました。自己アピールができないというか、思いつかないのだということでした。かれは「自分にはなにもない」と、ばくぜんと悩んでいました。あとは、東京で就活したときに接した周りの就活大学生の雰囲気にちょっと嫌気がさしていたこともあったようです。私はまず、「就活ノート」を作るように伝え、なにがアピールできるかをいきなり考えるのではなく、ノートに自分が大学時代にやったことを50、箇条書きで書き出すように伝えました。例えばその50のなかから、大事だと思われたものを選考して半分残し、それらひとつひとつの意味をどのように人に説明できるか(なぜやったのか、やってどうだったのか)を考えてまたノートに書きます。就活面接ネタ帳の出来上がりです。あとは、就活先によっていくつかのネタの組み合わせでストーリーを作って、ということをやっていけばいい。実績(実際にやったこと)をもとに話すことと、やったことに意味をつけて他人に説明できることが重要なだけで、スペシャルな実績が必要なわけではありません。その後かれは就活を無事終えます(この人です)。

就活面接は、場数を踏めば要領も徐々に掴めてくるので小さな失敗はその先への練習だと思って気にしない(失敗しない就活はない)。就活のこころがけは、別のエントリにもすでに書きました。

ところで私が常々思うのは、就活にしろ卒論にしろ、なぜだかわかりませんが「アンテナを立てていないかんじ」のする人が意外と多いことです。とても狭い意味で「自分に直接関係のあること」だけを拾っていこうとすると(たとえば、××さん、と自分が名指しされたことだけ反応していると)、多くのヒントを逃してしまうことになります。

私は教員としてはいいかげんなほうなので、ゼミでほかの学生の発表をまったく聞いていない風の学生がいても、その「態度の悪さ」だけで叱るようなことはあまりしません。面倒だし時間のムダだからです。ある人がアドバイスを受けているとき、自分とトピックやテーマはちがっても、自分にも同じように調査方法や論文の書き方で分からない共通のポイントが出てくるのです。そのとき拾えるヒントがあるかもしれないのに、ほかの人の話だと決めつけて聞いていないことで先々時間の損失をします。そういう姿勢だと、就活と卒論で過ぎていく4年生の1年間がどんよりしたかんじになりやすいので、気をつけた方がいいと私は思います。

うすうす直感しているかもしれませんが、就活も卒論も、いまのみなさん自身の身の丈ジャストのままでは手に負えない活動で、どちらも取り組みを通して成長していく(やりながら学習していく)活動だと思っています。ここで言う学習とは、その都度の自分の達成したことを自省的に分析し、次に備えることです。卒論も就活も、成長する前に強制的にスタートしなければならないので、最初は勇気だけは要ります。

4年生のみなさんをみていると、成長を感じる人ほどその成長の波にうまく乗って結果的にいろんなことを処理できています。特別に自分に向けられていない情報からもヒントを拾ってinputできるし、相手の意見や立場を想定したoutputも上手になってきます。だから、いまの自分の身の丈ジャストのまま、自分宛に発信される情報だけ受信する姿勢のままではなく、もう少しアンテナを立てて、周囲の情報からもヒントを拾っていくという努力や工夫が加われば、事態は好転していくと思います。

というわけで、ヒントをどのくらい拾えるかが勝負だと思っています。就活も卒論も、みなさんそれぞれのニーズ(興味のあるキャリアの方向や研究の関心)を把握したうえですすめる個別のプロジェクトなので、大学受験よりも数段複雑なのです。みなさんひとりひとりの求めに、ゼロから対応している時間は、じつはこちら(ガイド側)にはありません(∵ みなさんの人数>>ガイド人数)。

そして、卒論も就活もゼロからではなく3か4からスタートしないと、ゴールの10まで行き着くことは難しい。4年次の初めにゼロからスタートするのでは、ちょっと間に合いません。その時点で3か4程度のポテンシャルがあれば、自力で考えて、多少へたくそでも人に自分のやろうとしているプロジェクトを説明できます。3年次までの大学教育のカリキュラムは、その3か4までの力がつくように組まれているのです。そこまではみなさん自身も責任を持たなきゃいけません。

この事情(基礎の部分は自力で)は、卒業してから先もすべてそうです。なんであれ、ゼロから10まで教えなきゃダメそうだな・・・という人を、あなたが面接員なら採用したいとは思わないでしょう。採用したら面倒そうだから。

もう分かりましたよね。3か4から10までガイドすることはできますし、それはゼミ教員の役目(あるいはキャリアセンターの役目)だと思っています。そこまでは、自分でやるしかないのですよ。「なにをやったらいいのか迷っています」という相談は「どう迷っているのか、なぜ迷っているのか教えてください」というこちらの質問から始まるのです。

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※ 180105追記
書き忘れていましたが、ゼミの卒論集は最大の参考書です。卒論とはどんなものかというゴールをイメージするのにも、卒論の全体構成はどうなっているのかも(各卒論の目次)、自分で集めたデータをどのように整理して論文に組み込むのかも(各卒論の図表や事例)、ここから学べます。それでも分からないことを、ゼミで処理すればいいのです。