2015年4月27日月曜日

佐々木さんのエントリー・シート

先週金曜の臨時ゼミは、就職2年目、某企業でシーリング材の営業で働いている佐々木さんに、お仕事の話と就活の話をしていただきました。そのなかで、ある企業人から「よくできている」と褒められたことのある、かれが3次面接まで進んだ某お菓子メーカーあてのエントリー・シートをみせてもらいましたが、あれの要点はなんでしょうか。

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細かいポイントはいくつもあるのですが、全体的に「ストーリー性」があるということだと思います。具体的に説明します。

シートのなかには複数の項目の作文があります。ここで言うストーリー性とは、それらの各項目で書かれてある内容どうしが、なんとなくそれを書いた人の中でつながって生きていて、かつ、それぞれが書いた人の入社後のビジョンにもつながっていっているな、と読む人が思えるかんじで書かれているということです。

佐々木さんには、特別アピールできる資格はありません。世の中にはもちろんTOEFL、TOEIC、英検とか日商簿記2級とか宅健とか行政書士とか、はては漢字検定とか、いろいろ資格はあります。そういう資格は、もしいま持っているなら、アピールには使えます。でも大事なのは、数ありゃいいというものでもないし、持ってるものを並べるだけではもったいない、ということです。4年生はいまから慌てて資格なんか取ろうとしなくてもいいです(時間かかるし)。

あと、面接の会場では「この資格持ってます」「入社後これができます」みたいなことをやたら押してくる就活生が目立っているかもしれませんが、恐れるに足らず。資格なんか履歴書みたら分かるし、履歴書とかぶることを面接で繰り返すと「こいつ、これしかアピールポイントないのかな」と思われます。「できます」アピールについても、できるかどうかは採る側が判断するので、そんなこと言うだけじゃあ意味ないです。

たとえば、TOEFL500点というのは、それ自体高スコアでもなんでもないのだとしても、大学在学時代のアメリカ自転車旅行の経験があり、将来海外での営業職を志望している、ということだったら、その各要素がつながってひとつの人物像を結ぶわけです。「ああ、優等生タイプじゃないけどやる気と行動力はあるんだな、じゃあ海外勤務も視野に入れているな」とか。

佐々木さんのエントリー・シートの現物をみてみましょう。まず、書き方です。

企業志望の理由とか、その企業でしかできないこととか、これまでに挑戦した困難な目標とその達成法とか。各項目のお題に対して、冒頭の1-3行目で答えを、続いて答えについての説明を書いています。たとえば1行目に志望理由、2行目以降は「なぜなら~」で始まる。これ、みなさんごぞんじのパラグラフ・ライティングですね。全体が徹底してその書き方になっています。企業の人がエントリー・シートを数百枚(場合によっては千枚以上)チェックしていることを考えれば、「なんか読みにくいな」と思われるだけで不利ですし、読みやすくて飛ばし読みでも要点が分かるというのは、まちがいなく有利です。

次に、書いてある内容です。佐々木さんが言っていた「経験は実績」がキーワードです。

目立つところがいくつもありますね。アメリカ大陸自転車横断とか。インカレ団体優勝とか。自己記録更新とか。ちょっと笑うほど「すごい人」にみえます。こういうのをみると、この人はすごい人だから私はこんなの書けません、と結論するかもしれません。でも、面接員側はもっとスレています。「こいつアピールがんばってんなー(笑)」とか「団体優勝や記録更新はキミもそうだけどコーチがよかったんだよね」とか「自転車だけか?バスとかに乗ってないのか?」とか思います。もちろん、悪印象はありません。

重要なのは、すごい達成を書いているという点ではありません。経験にちゃんと意味や説明をつけられているかどうかだけが分かれ目なのです。失敗の経験を書くのだって、いいと思います。その失敗に意味や説明を付けられるということは、失敗を経験していない人・失敗しただけの人に比べて、明らかに経験値が高いからです。

経験は実績です、と佐々木さんは言います。ただし、あなたの経験そのままでは誰が見ても分かる実績にはなりません。(a)その経験が自分にとってどのような意味があった(ある)のかという経験への意味付けをし、(b)それがその企業に入ったときにどう生かせそうなのかというビジョンも少し述べる。これらの(a)(b)2つが書かれていてはじめて経験が「実績」になる。これが書けていることが、いいエントリー・シートの条件なのだと思います。「経験」を「実績&ポテンシャルの根拠」と位置づけて作文する、ということです。そういう実績、ポテンシャルをどう評価してどう使うかということは、採る側が決めます。

エントリー・シートには、履歴書に書いてあることを繰り返したってしかたない。逆に、履歴書に書けていない、書けなかったことを書くべきです。「経験」はその最たるものです。また、経験したことは、自分なりの話し方がやりやすいはずです。面接員の手元にあって質問のネタになるのがエントリー・シート。そこに書かれてある内容を、面接の場で自分で補足することはそんなに難しくはないでしょう。志望理由の模範答案を暗記したかのようなロボット的面接受験者はまったく印象に残りません。それより経験の語り方を工夫してみましょう。

というわけで、エントリー・シートでも面接でも、自分をプレゼンするときに、個別バラバラの経歴・資格等々の羅列よりも、個々の項目で書かれている経験の内容が意味付けされ、仕事のビジョンにも関連づけられた実績・ポテンシャルとして示されていれば、読む人(企業の人)にとって現在の本人(エントリー・シートを書いた人)の将来人物像に焦点が合って、その人への興味を引くかんじになって、いいんです。それが、冒頭で私が言った「ストーリー性」です。

経験を書く、というときに難しい点があります。他の人からは独自の経験にみえ、なんらかの実績の根拠とかあなたのもつポテンシャルと評価できるものでも、自分自身では「みんなやってることだ」「フツーのことでたいしたことない」と思えてしまう点です。これ、その経験に価値がないのではなく、意味付けがまだできていないだけのことです。

たとえば社会行動コースなら、実習とか卒論で、現場で取材していること、インタビューしていることなどは、実はあんまりほかの受験者がやってないことですし、具体的な調査場面のエピソードとか、いろいろ語れるじゃないですか。そういうの、面接で強いです。社会調査士という資格も、面接員には知らない人が多いでしょうけど、そこに食いついて来たら実習や卒論の話をすればOK。ただし面接では、最初は「社会調査」でいいんですが、話を続けていくときに「調査」「フィールド」という漠然としたコトバを連発するより「取材」「インタビュー」「アンケート」「調査した地名」など具体的にやったことがイメージしやすい語を選んで使ったほうが有利(こういう小手先も大事なのです)。

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あらためて佐々木さんのエントリー・シートを読むと、自分のことをよくここまでいけしゃあしゃあと褒められるものだ、とも思います(笑)。自分で自分を褒める作文が難しい場合は、私が添削することもできるので、相談してください。ゼミでも言いましたが、私、意外と人を褒めるの得意です。あと、佐々木さんは「笑顔はほんとうに大事っすよ」と言ってました(笑)。

2015年4月15日水曜日

2年目=2015

昨年度後期から始めたこのblogも2年度目に入りました。

今年度も昨年度と同じタイトルの講義を受けもち、その講義でこの予習・復習用blogも紹介しているので、みなさんは講義タイトルのラベルからアクセスして昨年度のエントリー記事を読むことも多いと思います。

毎年講義内容はバージョンアップしていくつもりですが、内容が全面的に変わることはしばらくありません。だからたとえば、今年度の社会学Aの受講者が昨年度のエントリー記事を読んで勉強しても、まったく問題はありません。

もちろん、今年度に新しくエントリーを書き加えるつもりもありますので、学生の皆さんには今年度と昨年度のエントリーをあわせて読んでもらえればと思います。

よろしくお願いします。