2025年10月23日木曜日

相手にとって難しい場合:インタビュー聞き取り調査

まだ慣れないうちは、インタビュー調査をしたあと「期待していたように相手からの経験談などが聞き出せなかったなあ」という感触を得ることはよくあります。ゼミでもそういう感想を聞きます。なぜでしょう?

このことについての答えは、簡単にいうと2つです。

(1)相手の話してくれた内容が、あなたの予想したこととはちがっていて、関係ないことのように思えた。

(2)なぜか相手がほとんど話をしてくれなかった、やりにくそうにしていた。 

…これらはいずれもこれからあなたが解決すべきことです。以下では順に説明していきます。

まず(1)に関して。いくつかのことが考えられます。2通りに場合分けしていますが、どちらかが当てはまるということではありません。たいてい、どちらの要素も入っていると思います。

(1-a)テーマやトピック、目的の伝え方

あなたが、あなたの調査テーマや目的をうまく伝えきれていないことが原因で、焦点が定まらないやり取りになってしまっている。たとえば、そもそもテーマや目的を伝えていないか、かなり広く解釈できるような大きく・ぼんやりしたテーマを伝えてしまっている。相手に合った説明が足りていない。相手が親切ならそれでも話してくれます。

また、相手に説明できていないだけでなく、ゼミでは文章の形でレジュメを作成できていても、実はあなたも深く理解していない場合もよくあります。同じテーマでも幾通りにもパラフレーズできるように、あなたの研究テーマや調査目的について誰かと質疑応答が3往復以上は平気でできるようになっておくことが必要です。

ちなみに、あなたがあなたの研究テーマや調査目的を深く理解していないことは、とくにこのゼミのようにフィールドワークを行なう研究の場合、研究のスタート時点ではある程度しかたのないことです。この点は、各自がこれから半年から1年間で調査を継続し、ゼミに参加するなかで意識しながら努力して言語化して、把握していくべきことです。

(1-b)あなたの理解/相手の経験談のズレを保つ

あなた自身の研究テーマについての理解度や想像力を深め・広げていくには時間がかかるので、まずは謙虚になることと、関心をもって勉強することが重要です。ただし、文献などの小難しいコトバを自分のレジュメに写したようなことだけで固めてしまい分かった気になっていると、インタビュー調査で相手が話してくれたほとんどのことはあなたの視野の外の「関係なさそうなこと」としてスルーしてしまうことになるので注意。

インタビュー調査での禁じ手のひとつは、あなたが決めた狭い定義・範囲の型で相手の経験をどんどん編集して切っていくことです。それでは台無しで、わざわざ相手の経験談を聞く意味がありません。その人のさまざまな経験がその人の主観的にどのような意味をもっているのかが解釈できるような聞き取りデータを集めるのがインタビュー調査の強みです。

たとえあなたがあなたの研究テーマや、そのインタビューでのトピックを伝えていたとしても、相手にとってそのテーマやトピックをとらえる視野は、あなたのものと同じではなく、異なっていることの方が多い。相手の属性なりこれまでの人生経験なりがあなたとは違うことを考えれば、これは簡単に想像できるはずです。

「なんか話が逸れてるような気がするなあ」と思ったとしても、相手の話の逸れかた・トピックについての興味のもち方に注意深くなれば、聞くことの面白さが徐々に出てくるかもしれません。そうなってくると、インタビュー調査はうまく転がり始めます。無駄や脱線を知的に楽しみましょう。そして、そのトピックについてのあなたの理解と相手の経験談の内容とのズレに思える部分にこそ、研究上の発見へのヒントがあると思います。

つぎに(2)について。相手の立場・属性や気持ちに対する想像力をもちましょう。インタビューは緊張する。あなたの相手はあなたに協力してくれようとしている。その思いが真面目であればあるほど緊張する。何を答えていいかわからない。

(2-a)調査活動が相手にどうみられているか

あなたは相手に協力を求める。相手は親切心から承諾する。しかし、あなたの説明する調査目的は小難しいし、質問は漠然としていて何を聞きたいのかがわからない。でも、大学卒業のための宿題だというからちゃんとした答を話さなければならない。…これらの状態が、相手を緊張させる原因です。すでに改善すべきところは明白ですよね? しかし仮にあなたの調査目的の説明がわかりやすく、質問は相手に答えやすく具体的なものであっても、相手が緊張する場合があります。…それはあなたが大学生だからです。

「なんで私なんかに緊張すんの?」とか勘違いしないでほしい。「大学の宿題」に緊張しているのです。大学生の卒論や勉強について、自分も大学を卒業した人はあまり緊張しません。だけどそうじゃない人は「勉強のことなんだからちゃんと答えないといけない」と思い込む。正確な知識や正しい意見を自分が持っているかどうかわからないし、間違っていたら恥ずかしいし迷惑をかけるかもしれない。自分じゃなくてもっと的確な相手がいるんじゃないか。こういうプレッシャーを感じる人は珍しくありません。

正確な知識やちゃんとした意見ではなく、あなたの経験談を聞きたいのだ、ということはお願いするときに強調しておきましょう。(*なぜインタビュー調査にとって経験談をたくさん聞き取ることが重要なのか?このことについては別の文献を参照すること。)

(2-b)言語化するのは慣れない・難しい・めんどくさい

親しい人が相手だとインタビューする−されるの役割にスイッチしにくく、実は知り合いじゃない人の方がインタビューはやりやすいかもしれない。このことを、照れだとか気恥ずかしさとか、心理面から説明することもできますが、もっと根本的な要因があります。それは「自分のことや普段当たり前に過ごしてきたことを言語化し説明するのは難しいしめんどくさい」ということです。

特にあなたと日常的に接点がおおく、親しい間柄の人たちは普段のあれこれをいちいち説明する必要がなく、なんとなく共有し共感して過ごしていますから、わざわざ説明モードになったり、わざわざ「自分の経験」を言葉にして相手に伝えるということがとても不自然な負担に思えるのです。

逆に、あなたの知り合いではなく、あなたとは属性(ジェンダーや年齢や出身地、学歴など)が違う人を相手にした場合には共感ベースを期待できないので「説明しないと相手にはわからないよな」という前提を置いてお話しする構えが自然にできます。親しい人とそうでない人との違いはこの「構え」に入ってくれるかどうかの差があります。しかしどちらの人にしても「経験談」にしたって言語化して説明するのはむずい。何をどこから説明すればいいのか、判断するのが難しいからです。

仮にあなたが「あなたの大学生活を説明してください」とか「大学の勉強はたいへんですか?」と中学生インタビュアーに尋ねられたとします。答えることはできそうですが、何をどこから説明すればいいのかはちょっと考えますよね?

このことを乗り越えるやり方はあるのか?正解はわかりませんが、提案はあります。最初の質問を小さくしましょう。上記の中学生インタビュアーの質問は2つともまだ大き過ぎ、何が聞きたいのかよくわかりません。もちろんあなたは「大学生活って・・・1人暮らしのこととか、講義やゼミのこととか、バイトのこととか、友人関係のこととか、部活・サークルのこととか、いろいろあるけど何が聞きたい?」と親切に誘導してあげることができます。それは、あなたがインタビュー調査とはどんな進め方をするといいか知っていて、かつ、大学生活についてもある程度整理して把握していたからできることなのです。

ただし・・・以下のことに注意。私はよく、インタビュー調査の準備で大事なのは「質問を用意すること」ではなく「自分のテーマや、今回の調査目的についてよく考え、想像していくこと」だ、と言います。相手に出す質問は相手にとって話題に入りやすい入り口に過ぎません。あなたが小さな質問を10こ用意して行っても、あなたが入口から先の方向を予想していたり、相手が話す内容の思いがけない広がりに興味をもったりすることがないかぎり、絶っ対にインタビュー調査が面白くなることはありません。

相手の話す内容のなかに、さらに聞きたいことが見出せた場合、すかさず「いまのお話の中のxxxっていうところについてなんですけど・・・」と質問していきましょう。「一つの質問について、まとまった答えをもらう」という質疑応答のフォーマットよりも、相手の話の中に見つけたさらに詳しく聞きたい点を掘り下げていく「やりとりが盛んな会話」に近いフォーマットの方がインタビューは盛り上がりますし、データはたくさん取れるのです。