2022年10月19日水曜日

「網羅的箇条書き」の作成:聞き取り調査後にやること(3年ゼミの場合)

 インタビュー聞き取り調査のあとに、どういう作業が必要なのかをまとめました。この場合、調査の現場ではメモをとり、調査協力者(話者)の許可を得て録音データがあるものとします。

1.網羅的な箇条書きの作成

自分の現場でのメモ書きをもとに、じっさいの話の流れ・順番にしたがって、箇条書きを作成する。

  • 話された話題を細かく分け、もらさず網羅的なものを作成するのが要点。
  • ひとつひとつの箇条書きは、単語ではなく2行程度の文で。内容が口頭で再現でき、かつみた人もあるていどイメージしやすい。
  • たとえば、1時間の聞き取り調査であるていど密な内容なら15-20程度の箇条書きになるはず。
  • 原則、録音データはこの時点で聞き直さず、自分の記憶にたよって作成してみること。もし1コマ分の時間を使っても思い出せないときは、いちど通しで録音データを聞きなおし(聞きながら文字起こしはしない!聞くだけ)、再度チャレンジすること。

2.前後のコンテンツの作成

以上の網羅的な箇条書きをつくったあと、以下のようにその前後のコンテンツを加えていく。

(1)この調査の目的

(2)聞き取りの日時、場所、話者のプロフィル

(3)網羅的な箇条書き

(4)この聞き取り調査からわかったこと、気づいたこと、考えたこと

なお、このとき(3)網羅的な箇条書きの内容を、3-5つのグループにわけ、それぞれのグループに見出し(なまえ)をつけておくとなおよい。

3.レジュメの作成とゼミでの議論

調査初心者の2年生のあいだは、上の2.のようなかんたんなレジュメを調査報告として、翌週のゼミで示せばよい。ゼミではおもに、網羅的箇条書きのそれぞれについて、調査にとってどのような意味があるのか、どの項目がより重要そうなのか、それはなぜか、などを議論する。

4.ゼミでの報告のあと

調査目的との関連で、とくに興味深い・重要そうな項目があれば、その箇所の録音データをもとに文字起こしをおこなう。文字起こしをおこなった内容のうち、とくに重要な部分には下線を引く。下線部の意味、ニュアンスをまず話者の主観的目線から説明し、つぎにこの卒論の調査目的にとってどのような意味で重要なのかを説明する。

ここまでの作業を2-3回繰り返せば、調査全体の目的が自分でだんだんコトバ化できるようになってくる。これでやっと、卒論調査レジュメらしい資料ができるようになる。

2022年2月2日水曜日

参考文献:メインをさがせ

卒業論文の参考文献をさがすのは、なかなか難しい作業です。J-Stageによる論文検索にせよ、大学図書館の所蔵図書のopacにせよ、検索ワードを考えるのがまず第1の壁…と思いがちです。

第1、第2…といくつかの工程があるのはそのとおりなのですが、検索ワードは第1の壁ではなく、その前にすべきことがあるのです。それらのすべきことの順を踏んでいけば、検索ワードは壁というより工程の一部になります。

検索され、選抜されて残った文献があなたにとって使いものになる文献になります。検索してすぐに釣れたものをリストアップしていくだけではまったく意味がない。ちゃんと自分の目と頭で選抜した参考文献リストを育てていきましょう。

以下では、ちゃんとした自分の参考文献リストをつくる正攻法を解説します。機械作業的な「リストづくり」ではなく、これまでのゼミでの議論をふまえ、卒論のほかの作業と並行してよく考えてはじめてできるものなのだということがわかるはずです。


テーマを2焦点型に

自分の研究の参考文献とは、自分の関心ある研究テーマと共通した関心のもとにある論文や書物のことで、先行研究と呼ばれます。研究テーマ、先行研究、研究目的の関係については、こちらを読んでおさらいしてください。

ゼミでは参考文献を、メインの参考文献・サブの参考文献というように呼んで大きく2つに分けて考えています。問題はメインのほうで、これはみなさんが自分の研究テーマについてよく考えている前提で、はじめてさがすことができます。

みなさんは、このゼミで社会学・文化人類学・地域研究などの分野にあたる論文を執筆することになります。研究テーマは端的に「タイトル」として表現されますが、タイトルにはたいてい主題と対象とがふくまれます。「なにを調べて(対象)・なにを考えたいのか(主題)」ということです。「なにを(対象)・どのように調べて(方法)・なにを考えたいのか(主題)」の場合もあります。

卒業研究をはじめたばかりの初期には、対象の情報しかないタイトルを作りがちです。「○○について」のようなものがその典型です(例:「弘前ねぷたについて」)。3年後期の終わるいまの時期には、それだけではなくなにを考えたいのかということ(主題)もふくめた【対象・主題】の2焦点型のテーマを考えてください(例:「弘前ねぷたの参加の構造と知識との関係」)。

一見してわかると思うのですが、【対象】のみの単焦点型テーマは3分間で浮かぶ思いつきと思い切りだけでできます。が、【対象・主題】の2焦点型のテーマは、自分がどのような調査をして、なにを解明したいのかをゼミで議論し、その結果を自分で言葉に結晶させなければできません。換言すれば、こうして練られたテーマは、誰かが見た場合、一読して内容の想像はなんとなくつくものの、抽象度があるので詳しい説明が必要なものになります。その説明文は将来、みなさんの卒論の冒頭部分になるのです。

さらに調査がすすんでいけば、これに方法や視点を加えた3焦点型のタイトル完成形に近づくと思いますが、これは4年生の夏休み明けの段階でしょう(例:「弘前ねぷたの参加の構造と知識との関係:女性・子供の視点および年代・町内間のちがいに着目して」)。これをみると、よりイージーな2焦点型は【対象・視点or方法】のほうではないか(例:「女性・子供の視点および年代・町内間のちがいかたみた弘前ねぷた」)と気づく人もいるかもしれませんが(笑)、【対象・主題】の2焦点型を作ることを強くおすすめします。なにを解明するためにその視点or方法なのか、を考えればあと一歩です。


メインの文献とは

さてここで、メインの参考文献とサブの参考文献の話に戻ります。メインの参考文献とは主題のための参考文献です。サブの参考文献とはところどころでピンポイントの情報・データを引用して使うための参考文献です。もちろん、メインにもサブにもなる文献もなかにはあります。

卒論の研究目的は、あなたが一方的に宣言するだけではダメです。その目的を掲げ、それを解明することにはどんな意味があるのか。メインの参考文献は、あなたの研究目的の意味づけをするために使います。

みなさんは、サブの参考文献はみつけることができます。理由はもうわかりますよね?単焦点型のタイトルにある「対象」を把握しているので、それを検索語にしてヒットした文献のなかから、タイトル、要旨、冒頭部分などに目を通して選抜すればいいわけです。

ひとりで考えるのが難しいのはメインの文献です。なにを調べようとしているのかがわかっていたら、自分がそれを通してなにを考えたいのかを考えます。そうしたゼミでの議論をふまえて、key wordsをいくつか抽出していき、それらを検索語の候補にすることが正攻法です。

メインの文献を探すとき、もうひとつ重要なのは分野です。社会学・文化人類学・地域研究などの分野から探してください。たとえば、上記のテーマ例で示したような関心をもった人なら、ねぷたや地域の祭りの観光客数を分析した観光経済学の論文を拾っても、メインの文献にはなりません。「分野ちがい」だと自分にとってハズレの文献を引く確率が大きくなります。


メインの文献を選抜する:論文篇

まず、論文検索です。最終的に3つのメイン参考文献を絞るために、J-Stageで検索するという想定でいきます。分野を指定したり、検索する雑誌を選んだりします。いろいろやってみて、使い慣れてください。考えられた検索語で検索します。あたりまえですが10くらいの論文をチェックしないと、最終的に3つに絞り込んだものが信頼できる参考文献とはなりません。先着三名様、でうまくいくわけがない。

検索してヒットした論文のタイトルをよくみて、内容を推理してください。そのうえで、key wordsと要約(abstract)をみましょう。abstractが英語で読みにくい場合には、最初の章のイントロダクションと研究目的の部分に目を通しましょう。そうして、はじめてその論文があなたのメイン参考文献として有力かどうか判断できます。ヒットした1本の論文の判断には、20-30分間かかるでしょう。

上記の作業をしても、判断が難しい場合があります。その場合は「保留」です。目を通し始めた1本目や2本目は判断が難しくて当たり前です。10本分目を通してみたら、あらためてそのなかの3本を選べばいいわけです(あたりまえのことしか言ってない…)。3本を選抜した場合、選抜した基準についての自分の主観(考え方)を、メモして記録に残して保存しておいてください。文献紹介レジュメの一部になります。

もし選抜に客観的基準があるならそれもいちおう記録に残しておいてください(あてずっぽうではなく根拠のある客観的基準があるなら、という意味です。ないならないでかまいません)。強いて言うなら、古いものより新しいもののほうが参考になることがあります(注意;古くてもクオリティが高く、新しくてもゴミなのもあります)。あまり古いものばかり拾わず、2000年以降のもの中心が無難かもしれません。


メインの文献をみつける:書籍篇

次に、大学図書館での書物の探し方です。opacを使うこと、実際に図書館を訪れないと内容をたしかめようがない点が論文とは異なりますが、基本的な考え方は同じです。図書館の書棚を前にしたとき、ターゲットの書物の周囲もみてみてください。検索語ではヒットしないけどもテーマには関わりのある書物がみつかるかもしれないからです。

論文でヒットしにくいテーマというものも存在します。そんなときは、その研究テーマがどのような小分野(たとえば、社会学のなかの文化社会学)に属するのか、webで調べるなり教員に聞くなりしてください。そして、その小分野についての日本語で書かれた入門書・概説書で、複数の著者によって書かれた新しめの書物をさがすことをおすすめします。

論文にせよ書物にせよ、末尾に参考文献リストが掲載されている文献が、卒論に使える文献です。参考文献リストが掲載されていない新書・文庫本などは、少なくともメインの参考文献にはなりません。さがしあてた論文・書物の末尾の参考文献リストは、あなたがさらに文献をさがすときの手がかりになります。

以上が、メインの参考文献をみつけていくための正攻法です。卒論の完成版では、少なくとも10の文献をリストアップするようにしてください。そのうちメインの文献は最小で3は必要でしょう。文献リストの様式などは、過去の卒論などを参考にすること。