2016年10月30日日曜日

ジェイン・ジェイコブズ

先週、大学院「地域社会学」の課題に出した文献『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』の著者ジェイン・ジェイコブズ[1916-2006]は、社会学者ではありません。また、本のタイトルには「経済学」とありますが、経済学者でもありません。さらに言えば、じつは学者でもありません。どちらかといえばジャーナリストとかアクティビスト(社会運動家)に近い人です。

詳しくはここにもありますが、かの女は最初雑誌・新聞の編集者として働いていました。社会運動家としては、都市の再開発についての異議申し立てで有名になります。たとえば、NYCで計画されたハドソン河とイーストリバーをつなぎ、両河川にも架橋するマンハッタン横断高速道路(Lower Manhattan Expressway)計画の着工を阻止したこと。市当局はこれによって「スラム」と呼ばれる地区の再開発を狙っていました。計画が頓挫したあと、この「スラム」地区はソーホー(South of Houston)と呼ばれるアート系人材や社会運動家などが住む場所として知られるようになったのです。
→しかしさらにのち、文化的価値の上昇したソーホーは、地価が高騰して現在は高級住宅(アパートメント)街となっています。これがいわゆるジェントリフィケーションの先駆です。

このように、ジェイコブズの守備範囲は、大きく言えば「都市計画」です。都市の空間的なデザイン、商業(経済)的な機能などを、現実生活を暮らしている住人にとってどうかという視点で論じているのが、かの女の書いたものの魅力です。だから、かの女の書いた本は、なにを勉強するということではなく、都市地域に生活する者として共感するかどうか、どこに共感できるか、という点のほうが大事だと思っています。

かの女は、日常生活で歩いたり自転車でうごく範囲、つまり生活圏がどのようであったら都市は住人にとって心地よく暮らしやすいかについて、観察に基づいた具体例を示しながら提案します。私が共感した本と箇所は、同じところに共感する人は多いようで、有名な箇所です。1961年に書かれた『アメリカ大都市の死と生』の第8章〜11章に記されている、都市が活き活きするための4つの条件で、①空間用途の重層(複合)が多くあること、②短く角を曲がる機会の多い街区(ブロック)、③新しい建物と歴史ある旧い建物とが共在する風景、④高い人口密度、を挙げているくだりです。(以下、原文。ここに訳文も載ってます。)

  • Condition 1: The district, and indeed as many of its internal parts as possible, must serve more than one primary function; preferably more than two. These must insure the presence of people who go outdoors on different schedules and are in the place for different purposes, but who are able to use many facilities in common.
  • Condition 2: Most blocks must be short; that is, streets and opportunities to turn corners must be frequent.
  • Condition 3: The district must mingle buildings that vary in age and condition, including a good proportion of old ones.
  • Condition 4: The district must have a sufficiently dense concentration of people, for whatever purpose they may be there. This includes people there because of residence.

いま見返しても、いやー正しいよなあ、と思うのです。これはそのうち、時間があれば話し合いたいことがらです。

今回の『発展する地域 衰退する地域』は、そんなかの女が書き残した本ですが、経済学がGNPのような数字で各都市の経済規模・豊かさの指標を示しているのに対抗して、各都市やその近郊・近隣農村の人びとの経済活動がどのようであるか、そしてその連携や役割分化がどのようになされているかによって都市の経済のあり方が決まっていく、ということについて述べたものです。みなさんは、将来どんな都市(あるいは農漁村)に暮らしたいですか?そして、それを考えるときに、なにを基準にするのでしょう?

地域社会学の講義では、一方でおもに制度とその運用の社会的効果について学ぶ文献(地域福祉、子育て・教育、まちおこし、分権化)を読み進め、各トピックについて考えていきます。もう一方で、もう少し別の視点・全体的な視点、しかも生活する住民からの視点で地域をみるとどうなるかを考えるために、ジェイコブズの本を用意したわけです。詳しくは、次回の講義で議論しましょう。


参考文献
Jacobs, Jane[1961→1992]The Death and Life of Great American Cities, Vintage Books(訳書あり)
ジェイコブズ、ジェイン(中村達也訳)[1984(1986→2012)]『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』、ちくま学芸文庫
塩沢由典ほか編[2016]『別冊 環 22:ジェイン・ジェイコブズの世界』、藤原書店

2016年10月26日水曜日

データによる記載の基本

毎日、3時間の作業ができるように机の上を整理しましょう。自分が気に入る整理のしかたでかまいません。整理整頓。自分にとってぐちゃぐちゃの机は、近づくのが億劫になります(私もよく経験します)。

さて、先日述べた「データによる記載」部分について、作業の基本を説明します。これは(1)データの整理、(2)図表の作成(あるいは観察や聞き取りの事例作文)、(3)整理したデータの説明文の作成、の3段階に分かれます。

卒論に使うかもしれないもので、(1)データの整理を済ませていない、調査しっぱなしのデータがありますか?すぐに済ませましょう!「これは絶対に使わない」というものは除き、あとはまず、手書きのノーツからファイルを作成。手書き状態のものがまだだいぶある、という人は、休日を使って集中して済ませるべきです。ノーツを文書ファイル化していないものは、材料にすることができません。

調査の直後に文書ファイル化したノーツほど、価値があります。手書き調査メモに細かい部分を肉付けしながら、詳しく再現することができるからです(ここも参照)。時間が経ったものはそれが難しいんですが、ないよりましだし悔やんでも遅いので、「肉付け」は諦めてさっさと文書ファイル化する。これに30時間以上かけていては、時間が足りません。集中してこなしてください。

次に(2)図表の作成(あるいは観察や聞き取りの事例作文)です。仮バージョンを自分で作って来て、面談でバージョンアップする、ということをしましょう。必須事項は次のとおり。

  • (a)図表に使われているデータが、どんな調査方法で得たデータなのか、説明文を作ること。
  • (b)図表は、どこに注目してどうみればよいのかなど、図表の見方の説明文を作ること。
  • (c)その結果、どんなことを述べたい(説明したい)図表なのか、論文全体の展開に沿った説明文を作ること。
  • (d)図表には、かならずタイトルをつけること。タイトルは、なにを説明するための図表なのかわかるものにする。

(a)(b)は自分でできるはずです。(c)(d)になってくると、やや難しくなるので、議論が必要です。

さて、そうなると(3)整理したデータの説明文、つまり卒論の本文については、上記(a)~(d)を組み合わせ、編集し加筆して行くことで自然にできていきます。

観察の事例や、インタビュー結果を事例として示す場合も、基本は(a)~(d)は同じ。ただ、少し注意点がちがうところもあります。

(a)調査方法については、いつ・どこでも記録する。具体的な調査日のほかにも、祭りの調査だったらお祭りの前に聞き取りをしたのか、当日なのか、後日なのか。それによって、応える人がどういうつもりで応えているのかはちがってくるので、データをどう解釈すればいいのかも変わってくるからです。

(b)多くの場合、観察やインタビューの事例は、卒論本文において図表ではなく文章で示されるわけですが、それにしてもどこに注目するかという「読者の注意点の誘導」は必要です。これは(c)なにを述べたいがための事例か、ということにも直結します。事例を示したあとで、この事例が、この卒論の論旨とどう関係しているのか、だからどのように重要なのかを、説明しなくてはならないからです。

そして、できるかぎり事例にも(d)タイトルをつけましょう。(b)(c)が考えられれば、自然に出てきます。

2016年10月24日月曜日

全体の見通し⇄データによる記載

中間発表まであとひと月を切り、そろそろみなさん気持ち的にも卒論の追い込みスイッチが入っていると思います。中間、というなまえにだまされてはいけません。卒論のコース締切は中間発表の日から、ほぼ1ヶ月後なのですから。約束通り、このコース締切で最後まで書けていない人は、さらに1ヶ月後の学部〆切時点でのできあがりを保証できません。

というわけで、時間との勝負です。時間の使い方をまちがっては失敗します。みなさん、もううっすらとした見通しはついていると思いますが、ここでは時間の使い方を指示します。

やるべきことは(1)全体の見通しを立てることと、(2)データによる記載をすすめること、この両方です。卒論面談ではおもに(1)をやりますが、そのとき、議論の材料となる(2)がなければなかなかすすみません。いまは(2)にもっとも時間をかけるべきです。1日に3時間は割いてほしい。

(2)を3時間やっていると、どれだけ時間がかかりそうかがすぐ分かります。3時間では、慣れてきた人でも1,000字すすむかすすまないか。卒論の量的な目安は20,000字ですから、単純計算で最低20日は必要ということになります。

そして、毎日(1)も15-30分でいいので時間を割いてください。具体的にやることは、ふたつあります。第1は、目次を見直すこと。目次は全体構成を示すものであり、ページ数確認のものではない、と思ってください。(2)自分の調査データの説明の方向が分からなくなったときは、(1)全体構成のなかでそのデータを使う部分がどんな役割を果たすべきなのかを考えるべきです。

第2は、その「全体構成のなかで果たす各部分の役割」を考えるためのことです。各章の冒頭に、その章で述べられる内容を要約した「要約文」のような1段落(リード文)をつけましょう。これは、パラグラフ・ライティングの考え方です。

たとえば完成する卒論が全5章だとすれば、第1章が研究の目的、第2章が方法と対象、そうすると第3章、第4章あたりが調査データを使って書く部分で、第5章がまとめと考察(こうした基本構成は、先日配布のレジュメに書きましたので見直してください)。とくに、(2)データによる記載に直結する第3章、第4章の部分に「要約文」を着けることは重要です。

要約文の付け方については、One Drive上に私のなまえのフォルダがあり、私の書いた論文を例として upしていますので(フォルダ「161024 各章要約文」)、具体例として参考にすること。

以上が、やることです。まとめます。データによる記載は、1日3時間は割いてすすめること。それが終わったら、15分~30分は全体の見通しを立てる作業にあてること。3日にいちどは、バージョンアップしたファイルをOne Driveにあげること。これのくりかえしで卒論、絶対にできあがります。