2017年3月9日木曜日

外部との関係で考える小社会の近代化

2017年度前期の農村社会史は、半分は日本の東北地方の、もう半分はどこか外国の農村のおはなしを題材に勉強していきます。参考図書は以下の2点です。ほかのものはその都度、紹介あるいは配布します。


農村は、ひとつのちいさな社会です。〈社会〉を考えるには、とてもよい題材です。まず、農村社会のなかでは、どのような社会関係が成り立っているのか。また、農村のなかではどのような農業が営まれているのか。農業と人づきあい(社会関係)にはどのような関連があるのか。そこを考えていくことで〈社会〉を理解していくことができます。

また、どんな社会もその〈外部〉との影響関係のもとに成り立っています。つまり、農村社会もそこに生きる人びとも、経済や政治、政策の影響のもとにあります。一般的に、前近代---近代化の始まる前までは、こうした外部との関係がきわめて少なく、近代化の過程で影響関係が大きくなっていく。ここで重要になってくるのがmobility、つまり移動性です。移動性が高まると、人・モノ・情報の移動が起こりますが、農村-都市間の関係で言えば、前期近代では、一般的には人は農村部から都市部に(向都離村)、モノと情報は都市部から農村部に移動します。

このように、小さな社会とその近代化について考えていくことが、農村社会史のベースにある大テーマなのです。詳細は、第2回以降の講義で明らかになるでしょう。

実際の講義内容はシラバスからかなり変更するところがあると思いますが、進行はシラバスのとおり、1回文献講読をしてその次の1回は議論、この2回1セットの繰り返しです。

2017年3月1日水曜日

文献の勉強のしかた

これは論文を書くときの難関のひとつですが、基本的に以下の3つだけです。

① 文献をみつける
② 内容を読解する
③ 自分の関心との関係をはっきりさせる

①は、以前に紹介したように、webサイトを使っていくらでも探すことができます(例1例2例3)。でも、安易にやっていてもみつかりません。まず、検索語は? 

検索語の見当をつけるには、自分の関心につながるものごとをkey wordにして把握しておけばやりやすくなります。最初は、みんな調査対象(見たいモノ、取り上げたいトピック。例:「ゲーム」「ファッション」)で検索しがちです。本来は「テーマ」(そのモノやトピックを通して考えたいこと)で検索すべきなのですが、はじめからテーマを把握している人はほとんどいないからです。

ここには、卒論ゼミで最初に挙げられた関心ある対象と、主題的関心、それに合った調査法との関係を記しています。最初に浮かんだ対象やトピックをみることを通して、考えたいことはなにか、難しく考えないで、言葉にしてみてください。

たとえば、農産物直売所への出荷は、出荷者さんにとって農協への決まった品目の大量出荷と違って、自分の目の届くコントロール範囲内で回っている小さな商いです。何を出すか、いくらの値段で出すかも出荷者さんが決めます。こうした小さな商売の面白さとはなんだろうか?

ということに、漠然と興味があったとします。もちろんこれも最初は「直売所ってスーパーと比べてなんか独特、でもなにが独特なんだろう」というようなもっと漠然とした直感かも知れません。さて、検索語はなんにしますか?たいていの人は「直売所」(=対象)でサーチします。最初はそれでいい。しかし、かりにそこで、全国の直売所の売り上げや店舗経営についての論文が続々とヒットしたとしましょう。

ここで注意。ヒットした論文を片っ端から読んでいくほど時間は無限ではありません。論文のタイトル、key words、アブストラクト(要約、摘要)があり、それらだけをチェックして自分の関心とマッチするかどうかを点検していきます。このとき、なにかある(気になる!)と思った内容やkey wordsは手もとのメモに残しておきます

さて、しかし直売所の「経営」には関心のポイントはありません。そこで、例えば出荷者さんの目線での直売所の商いが「対面性」や「記名性」に基づくものだと気づくかもしれません。農協に出荷して終わりではなく、自分の商品を買う人と対面したり、商品には自分の名のラベルが貼られていたりします。ヒットした論文のなかから、そうした関心にかするものがあれば、そこから話はすすみます。少ししか見つからないとしても、それは他人の見つけていない鉱脈をみつけたということかもしれません。

まったくみつからない場合、2つの対策が考えられます。その第1。「対面性」や「記名性」にもとづいた小さな商売という同等の要素をもった、直売所とはちがう対象(社会現象)をさがしてみましょう。たとえば、フリーマーケット(蚤の市)はどうでしょうか。フリーマーケットを検索語にして、論文を検索してみます。そして上のことを繰り返します。良さそうだと思った論文をみつけたら、同じ著者によって書かれた別の論文もチェックしましょう。

その第2。論文検索からいったん離れて、おなじ検索語で(論文に限らない)web全体の検索をしてみる。もちろん全体はおそるべき玉石混淆なので、そのさいは大学(ac.jp)や行政(go.jp)のページにとくに注意しましょう。そうすれば、世の中で、自分のみようとしている対象がどうみられているかを掴むことができますので、ここでもkey wordsをメモっていきます。

こうした作業を繰り返せば、だんだん自分が直売所という「対象」を通して考えたい「テーマ」へのヒントが集まってきます。そうするとしめたものです。

②の論文の読みかたについては、別のところで書きましたので、ここでは省略。ここで言いたいことはひとつ。論文は1本だけではなく、最低3本は用意して読みましょう。

③の自分の関心との関係について。じつはここがいちばん重要なのですが、お分かりのように、この作業はすでに①の段階から手をつけています。みなさんには②の作業量を減らすために①と③をしっかり意識してもらいたい。

自分の関心と、まったくおなじ論文はないと思ってください。みつけた論文のなかでも、どこか自分の追求・深堀りしたいところとは少しずれていたりする場合がほとんどです。まず、どこがちがうかを、メモ・ノートしながら読んで、コトバで掴むようにしてください(ここも参考)。

自分の関心に忠実に、独自のデータをもとにして人を説得していくのが論文です。すでにある論文が似たようなものごと(対象)や関心(テーマ)を扱っているものだとしても、自分が追求したいこととはちがう。とすると、残りは「では、自分独自の関心や目のつけどころ、調査方法などが、なぜ重要なのか」を説明することです。これはやがて「研究の目的」につながっていきますが、ここから先は、ゼミで議論しないと難しいところでしょう。

2017年2月14日火曜日

もし、大学院入学希望(かもしれない)なら

大学卒業後に、就職ではなく大学院に進学するということも、選択肢のひとつです。一般に、人文社会系の大学院は進んでも就職はよくならない、と言われます。目的意識がなければ、そのとおりです。が、ちゃんと自分なりにねらいや戦略があれば、その限りではありません。まず、早めに相談を。4年生の秋以降では、遅いです。

大学院の勉強は特別難しいか。かなり頭がよくなければ大学院はやめたほうがいいのか?そんなことはありません。これは過去に私が学生に言ったことがあるのですが、もっとも必要なのは、社会にまつわるなにかを分かりたいという関心と、それを形(原稿)にしたいという欲と、長期的に取り組む根気ないし根性です。頭の良さなどよりこれらのほうが確実に重要。

大学院(修士課程)の2年間は、案外あっという間です。文献を読んだり、調査をしたり、論文を書いたりということは、どれも時間のかかることです。みなさん卒論に取り組むにも、本気モードになってから最低でも半年はかかったはずです。修論は、その倍以上かかると思ってください。だから、時間やお金・労力のやりくりができることも大事かもしれません。

2017年2月11日土曜日

整理しなおして書き直すとき

卒論・レポートなど、長い文章を書き上げても、なんとなく内容が整理されていないとき、作文の推敲レベルを超えて、もういちど整理しなおして書き直す必要が出てきます。論文形式の文章を整理しなおしながら書き直すときには、パラグラフ・ライティングを意識して構成を組み直すと整理されます。

ひとまず、以前にも挙げた、以下の参考文献の該当箇所に目を通してください(実習室にあります)。

  • 倉島保美『論理が伝わる世界標準の「書く技術」』講談社ブルーバックス、2012年(pp.26-32)

だいたい、パラグラフ・ライティングについて分かりましたね?では、自分の書いた原稿のファイルを開きましょう。

まず、目次をみます。なんども言っているように、論文にとっての目次はページ数を知らせるためだけのものではなく、構成を示すものです。各章のタイトル、各章内の各節のタイトル。それらをみながら、自分で全体の流れをきちんと他人に対して説明できるでしょうか。

次に、各章には、リード文は書かれていますか?リード文とは、その章に書かれてある内容を要約してある文章で、各章の冒頭1-2段落分をこれにあてます。リード文の内容は、読者にとってわかりやすいでしょうか?各節も同様です。冒頭のリード文でその節で述べることをあらかじめ示します。リード文の役割は、あらかじめ要約を示すことによって、全体のなかのその章、その章のなかのその節の果たす役割を読者に示すことなのです。

この時点で、リード文がこころもとなければ、書き直す作業をしてもよいかもしれません。しかし、卒論の整理されなさは、リード文がしっかりしていないことが原因なのか、その章や節のリード文のあとの中身のほうが整理されていないことが原因なのかは、まだ分かりませんので、リード文をまず直せばいいかどうかは、その先の中身をみてからのほうがよさそうです。

さて。論文全体の構造は、全体>章>節>項となっており、章以下はたとえば、1>1−1>1−1−1などのように表されます。これらより小さな単位がパラグラフと考えればいいでしょう。目次の段階では、節か項のレベルが最小となっており、それ以下の単位は表れていません。なので、論文の内容が整理されていないのは、パラグラフがまだはっきりしていないからではないかということが考えられます。

そこで、以下の作業をやってみましょう。

(1)トピックを探し、パラグラフに分けてみる
(2)パラグラフごとに、パラグラフライティングをすすめる
(3)(2)の作業で、そのパラグラフから除外される文章が出てくるので、それらを章節のなかに再編入する、具体的には別パラグラフを立て、そのなかでの作文を考える

私の考えでは、(1)ができれば、それぞれのパラグラフで扱うトピックは分かっているはずであり、その先にある(3)の工程も想定しておれば、作業自体はすすむのではないかと思います。

これらの作業が難しい場合が出てくるかもしれません。その場合は、その原因を自分で考えてみましょう。

たとえば、

A)そもそもトピックの数が多く(小トピックの乱立状態)、比較的大きいトピックと比較的小さいトピとに分けることに四苦八苦している。しかも、各トピックが小さいためトピ毎の情報量が少なく、パラグラフ・ライティングが適用しにくい。

そういう状態なのかもしれません。それはやはり、自分の頭のなかでKJ法的に、小トピックのカードをまとめた中トピックの島を作り、その島に表札(トピック名)をつけるという作業をしてみることが打開策かもしれないですよね。

B)トピック毎のデータと説明内容はイメージできるのだが、どのような順番で説明をおこなえばいいのか分からない。パラグラフの冒頭にある「要約文」は書けるのだが、その後の複数の説明の文の順番の組み方が分からない。

もしかすると、そういう状態かもしれません。この場合は、要約文の内容と、その後に書かれてある文章にふくまれる情報とに不一致がないかチェックする。不一致のある場合には取捨選択をおこない、メインのものを優先するべき。要約文の内容をよく分析し、ここでは何を優先して書き、優先する情報に附属する情報がなにかという説明の優先順位をはっきりさせる(そして、おそらく要約文の内容自体も補足することになる)。

難しいですか? ならばもういちど、各章のリード文をみなおしてみてください。そしてまず、各章リード文をつなげて読んでみると、卒論全体の展開(流れ)、つまりどんな問い(目的)を立て、そのような着目点で、どのような調査をして、最初の問いに対するどのような着地点を得ているのかが分かるようになっていますか?

もしそれが分かるのだとすれば、全体のなかで各章の果たす役割が、分かるはず。

そうしたら次に、章内の各節の冒頭の段落(リード文)も作りなおしてみましょう。とくに4部構成のうちの「本体」部分については、節レベルまでリード文を作ればいいと思います。各章内の各節のリード文をつなげて読んでみましょう。そうすると、各章全体のなかでの各節の役割もわかるようになるでしょう。

次はパラグラフです。各節内の各パラグラフの冒頭の要約文をつなげて読んでみましょう。そうすると各節全体のなかでの各パラグラフの果たすべき役割がわかるはずです。そこまで分かれば、おそらく各パラ要約文につづく説明の文の順番組みも分かってくるのではないでしょうか。

論文のなかみを整理し直し、書き直すということは、このように全体と部分とを何回も往復してなされるべき作業です。こうした作業をへて出来上がった論文は、強度のあるものになります。


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注記: 念のために言っておくと、ここで言う「パラグラフ」は日本語で言う「段落」とはちがいますからね。この点あいまいな人は上記文献の該当箇所を読み直し。

2016年11月25日金曜日

研究の目的


卒論(に限らず論文一般)のおおまかなフォーマットは、次の4部構成です。

Ⅰ.研究の目的(はじめに)
Ⅱ.調査の対象と方法
Ⅲ.本論(ここが2〜3章分)
Ⅳ.議論のまとめと考察、残された課題

もっとも分量が多いのは「Ⅲ.本論」の部分です。標準的な卒論は、この第Ⅲ部が2章分〜3章分からなり、ほかの部は1章ずつで全体が5−6章となります。

先日まで、データとその説明文をどんどん書いていけ、と言っていたのは「Ⅲ.本論」の部分を完成させるためでした。まだその作業のまっただなかの人もいますが、そろそろⅡ.とⅢ.の部分は、ほぼ内容(材料となる文書ファイルや図表ファイル、および説明文)が出そろったのではないかと思います。まだできていない人は、急ぎましょう。

コース〆切まで2週間を切りました。もう冒頭のⅠ.と最後のⅣ.の部分に取りかかるべきです。今回はこのうち「Ⅰ.研究の目的」でなにを書けばよいかということについて述べます。すでにこの部分を書いている人も、もういちど見直してみましょう。

今年度の卒論は、どれもタイトルがよくできていると思います。タイトルに、卒論でなにを明らかにしたいかが現れているからです。たとえば、グリーン・ツーリズムを実施する際に受け入れ農家がクリアすべきハードルを明らかにすること、公民館の開催行事への住民の参加形態を明らかにすること、地方劇団と多くが社会人であるその劇団員の活動の実態を明らかにすること、滞在型地域外人材の集落維持に果たす役割を明らかにすること、などがそれぞれの研究の目指すところです。

研究の目的で書くべきなのは、基本的には、みなさんがタイトルで表現した「何を明らかにしたいか」です。だから、(A)まずタイトルの詳しい解説(解題)が必要でしょう。タイトルで使っているキーワードの説明などがそれにあたります。また、これは必須ではありませんが、(B)その卒業研究の着想にいたった経緯から導入してもいいと思います。個人的な疑問や気づきから入るやり方です。

でも、(A)(B)だけでは足りません。(C)「なぜ、それ(タイトルで表されたこと)を明らかにする必要があるのか」、言い換えれば「なぜ、それを明らかにすることが重要なのか」を説明する必要があります。じつはこれがいちばん重要です。それをしないと、たんなる趣味の文章に近づいてしまうからです。

なぜ、それを明らかにすることが重要なのか。この根拠を説明するやり方は、通常、2つのパターンしかありません。第1は「いまその社会現象が、現実社会で重要な課題とされているから」あるいは、「現実社会で重要な課題とされていることと、この研究の扱っているテーマが関連の強いことだから」というものです。もちろん後者の場合は、その「強い関連」の解説をていねいにおこなうことは必須です。また、どの資料が、どのように注目しているのか。統計、政府や自治体報告書などの資料、新聞・雑誌記事などに根拠をもとめ、本文中に要約して示しましょう。

第2は、「その社会現象が、ほかの研究で重要な課題とされていたから」、そして、「そこで議論されていることを視点や角度を変えて観察し、新しい知見を付け加えられると見込んだから」。たとえば、やや安易ですがこういうこともあります・・・「関東地方での調査はあるが、それが青森県でも妥当かどうか比較できると見込んだから」(もちろんこの場合も、なぜ青森県で比較調査をおこなう意義があるか、については説明が必要です)。いずれも、すでに注目すべきことがらとして同様の研究がある、それを踏み台にして新しいことを言う、というやり方です。これも、根拠となる論文・書物を引用し、本文中に要約したり抜粋したりして示します。

この2つのやり方は、どちらかひとつを採る、というのではなく両方が入っているほうがいいです。同じ社会問題でも、行政やジャーナリズムがそれを扱うときのやり方と、研究でそれを扱うときのやり方(とくにデータの分析や解釈の部分について)はちがうからです。つまり、第1のやり方オンリーでは弱く、どちらかといえば第2のほうを研究では重視しています。これがよく言われる「先行研究レビュー」です。

では、以上を参考に現時点での自分の原稿の「Ⅰ.研究の目的」部分をチェックしましょう。(A)(C)の要素は、ちゃんと入っているでしょうか?(C)のなかには、第1と第2の要素—とくに第2の先行研究レビューが入っていますか?

もちろん、中身となる「Ⅲ.本論」の部分があるのだから、その中身との兼ね合いも勘案しましょう。こうして、いま「Ⅰ.研究の目的」を見直し、バージョンアップしていくことで自分の論文の全体が見えてきますし、最後の「Ⅳ.まとめと考察」の部分に書くことは、おのずと明らかになってくるはずなのです。

2016年11月3日木曜日

構成とデータ(図表、事例)で伝える

来週のゼミでの配布資料について、タイトルと目次だけのファイル、本文だけのファイル、図表だけのファイルを分けて印刷し、配布するよう指示しました。本文をふくめすべてを配るのは4年生と私にだけ、2、3年生に配るのは「タイトルと目次」「図表(と事例)」の2種類のレジュメだけです。

なぜこんな指示を出したのかといえば、論文の叙述には、(ⅰ)構成が意識された展開、(ⅱ)データをもとにしっかりと社会現象を述べていくこと、の2点がもっとも重要だからです。今回の指示にしたがった作業を通して、これらに関して意識的になってください。

このエントリーも含めた、ここ3回分の卒論関連エントリーを読み返してください(全体の見通し⇄データによる記載データによる記載の基本)。私は一貫して、上で述べた重要点をクリアしていくための方向と方法、作業内容を示し続けています。

次回ゼミ発表への対策を以下に伝えます。

  • まず、図表類(事例含む)も本文も、これまでに作成したすべてを出してください。これまでの到達の全体、これから組み立てる卒論の材料のすべてが私と著者であるあなたに具体的に見えていないと、私もアドバイスのしようがありません。
  • 図表には、よく考えてタイトルをつけてください。事例の文章にも。ばくぜんとしたタイトルはやめる。何のデータが示された表か、何と何との関係が示されたグラフか、何を示そうとした事例か。そういうことが分かるタイトル。
  • 表は、どういう順番で表のなかのデータを並べるかをちゃんと考えること。なんとなく、は絶対にダメ。表としてみにくくなるし、説明もボンヤリしたものになるからです。説明したいことがみえやすい順番に並べること。

以上が、おもに全体方針とデータについて。次に、構成について。2、3年生に配布するのは「タイトルと目次」「図表(と事例)」だけです。発表者ひとりに20分程度しか時間を取れませんので、長々と本文を読む時間もありません。

  • 研究目的、各章の要約文は、かならず用意しておく。研究目的を述べ、データを説明する各章では「第×章では、・・・・・について明らかにするため、・・・・・の調査によって得たデータをもとに・・・・・ということを示します」というように、予告してから図表・事例の説明に入ること。
  • 図表や事例のデータ説明のあとには、そのデータをとおして分かること、そのデータから解釈できることを述べる。
  • 全体の構成と、それぞれのデータを全体のどの部分や位置にあるといいか、なにを説明する役割であるといいのかという関係がわからなくなったときには、先週に実例を示した「自分への作業指示書」を1時間かけて作ってみましょう。

だいたいそんなところですね。がんばればできると思います。

2016年10月30日日曜日

ジェイン・ジェイコブズ

先週、大学院「地域社会学」の課題に出した文献『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』の著者ジェイン・ジェイコブズ[1916-2006]は、社会学者ではありません。また、本のタイトルには「経済学」とありますが、経済学者でもありません。さらに言えば、じつは学者でもありません。どちらかといえばジャーナリストとかアクティビスト(社会運動家)に近い人です。

詳しくはここにもありますが、かの女は最初雑誌・新聞の編集者として働いていました。社会運動家としては、都市の再開発についての異議申し立てで有名になります。たとえば、NYCで計画されたハドソン河とイーストリバーをつなぎ、両河川にも架橋するマンハッタン横断高速道路(Lower Manhattan Expressway)計画の着工を阻止したこと。市当局はこれによって「スラム」と呼ばれる地区の再開発を狙っていました。計画が頓挫したあと、この「スラム」地区はソーホー(South of Houston)と呼ばれるアート系人材や社会運動家などが住む場所として知られるようになったのです。
→しかしさらにのち、文化的価値の上昇したソーホーは、地価が高騰して現在は高級住宅(アパートメント)街となっています。これがいわゆるジェントリフィケーションの先駆です。

このように、ジェイコブズの守備範囲は、大きく言えば「都市計画」です。都市の空間的なデザイン、商業(経済)的な機能などを、現実生活を暮らしている住人にとってどうかという視点で論じているのが、かの女の書いたものの魅力です。だから、かの女の書いた本は、なにを勉強するということではなく、都市地域に生活する者として共感するかどうか、どこに共感できるか、という点のほうが大事だと思っています。

かの女は、日常生活で歩いたり自転車でうごく範囲、つまり生活圏がどのようであったら都市は住人にとって心地よく暮らしやすいかについて、観察に基づいた具体例を示しながら提案します。私が共感した本と箇所は、同じところに共感する人は多いようで、有名な箇所です。1961年に書かれた『アメリカ大都市の死と生』の第8章〜11章に記されている、都市が活き活きするための4つの条件で、①空間用途の重層(複合)が多くあること、②短く角を曲がる機会の多い街区(ブロック)、③新しい建物と歴史ある旧い建物とが共在する風景、④高い人口密度、を挙げているくだりです。(以下、原文。ここに訳文も載ってます。)

  • Condition 1: The district, and indeed as many of its internal parts as possible, must serve more than one primary function; preferably more than two. These must insure the presence of people who go outdoors on different schedules and are in the place for different purposes, but who are able to use many facilities in common.
  • Condition 2: Most blocks must be short; that is, streets and opportunities to turn corners must be frequent.
  • Condition 3: The district must mingle buildings that vary in age and condition, including a good proportion of old ones.
  • Condition 4: The district must have a sufficiently dense concentration of people, for whatever purpose they may be there. This includes people there because of residence.

いま見返しても、いやー正しいよなあ、と思うのです。これはそのうち、時間があれば話し合いたいことがらです。

今回の『発展する地域 衰退する地域』は、そんなかの女が書き残した本ですが、経済学がGNPのような数字で各都市の経済規模・豊かさの指標を示しているのに対抗して、各都市やその近郊・近隣農村の人びとの経済活動がどのようであるか、そしてその連携や役割分化がどのようになされているかによって都市の経済のあり方が決まっていく、ということについて述べたものです。みなさんは、将来どんな都市(あるいは農漁村)に暮らしたいですか?そして、それを考えるときに、なにを基準にするのでしょう?

地域社会学の講義では、一方でおもに制度とその運用の社会的効果について学ぶ文献(地域福祉、子育て・教育、まちおこし、分権化)を読み進め、各トピックについて考えていきます。もう一方で、もう少し別の視点・全体的な視点、しかも生活する住民からの視点で地域をみるとどうなるかを考えるために、ジェイコブズの本を用意したわけです。詳しくは、次回の講義で議論しましょう。


参考文献
Jacobs, Jane[1961→1992]The Death and Life of Great American Cities, Vintage Books(訳書あり)
ジェイコブズ、ジェイン(中村達也訳)[1984(1986→2012)]『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』、ちくま学芸文庫
塩沢由典ほか編[2016]『別冊 環 22:ジェイン・ジェイコブズの世界』、藤原書店