2016年11月3日木曜日

構成とデータ(図表、事例)で伝える

来週のゼミでの配布資料について、タイトルと目次だけのファイル、本文だけのファイル、図表だけのファイルを分けて印刷し、配布するよう指示しました。本文をふくめすべてを配るのは4年生と私にだけ、2、3年生に配るのは「タイトルと目次」「図表(と事例)」の2種類のレジュメだけです。

なぜこんな指示を出したのかといえば、論文の叙述には、(ⅰ)構成が意識された展開、(ⅱ)データをもとにしっかりと社会現象を述べていくこと、の2点がもっとも重要だからです。今回の指示にしたがった作業を通して、これらに関して意識的になってください。

このエントリーも含めた、ここ3回分の卒論関連エントリーを読み返してください(全体の見通し⇄データによる記載データによる記載の基本)。私は一貫して、上で述べた重要点をクリアしていくための方向と方法、作業内容を示し続けています。

次回ゼミ発表への対策を以下に伝えます。

  • まず、図表類(事例含む)も本文も、これまでに作成したすべてを出してください。これまでの到達の全体、これから組み立てる卒論の材料のすべてが私と著者であるあなたに具体的に見えていないと、私もアドバイスのしようがありません。
  • 図表には、よく考えてタイトルをつけてください。事例の文章にも。ばくぜんとしたタイトルはやめる。何のデータが示された表か、何と何との関係が示されたグラフか、何を示そうとした事例か。そういうことが分かるタイトル。
  • 表は、どういう順番で表のなかのデータを並べるかをちゃんと考えること。なんとなく、は絶対にダメ。表としてみにくくなるし、説明もボンヤリしたものになるからです。説明したいことがみえやすい順番に並べること。

以上が、おもに全体方針とデータについて。次に、構成について。2、3年生に配布するのは「タイトルと目次」「図表(と事例)」だけです。発表者ひとりに20分程度しか時間を取れませんので、長々と本文を読む時間もありません。

  • 研究目的、各章の要約文は、かならず用意しておく。研究目的を述べ、データを説明する各章では「第×章では、・・・・・について明らかにするため、・・・・・の調査によって得たデータをもとに・・・・・ということを示します」というように、予告してから図表・事例の説明に入ること。
  • 図表や事例のデータ説明のあとには、そのデータをとおして分かること、そのデータから解釈できることを述べる。
  • 全体の構成と、それぞれのデータを全体のどの部分や位置にあるといいか、なにを説明する役割であるといいのかという関係がわからなくなったときには、先週に実例を示した「自分への作業指示書」を1時間かけて作ってみましょう。

だいたいそんなところですね。がんばればできると思います。

2016年10月30日日曜日

ジェイン・ジェイコブズ

先週、大学院「地域社会学」の課題に出した文献『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』の著者ジェイン・ジェイコブズ[1916-2006]は、社会学者ではありません。また、本のタイトルには「経済学」とありますが、経済学者でもありません。さらに言えば、じつは学者でもありません。どちらかといえばジャーナリストとかアクティビスト(社会運動家)に近い人です。

詳しくはここにもありますが、かの女は最初雑誌・新聞の編集者として働いていました。社会運動家としては、都市の再開発についての異議申し立てで有名になります。たとえば、NYCで計画されたハドソン河とイーストリバーをつなぎ、両河川にも架橋するマンハッタン横断高速道路(Lower Manhattan Expressway)計画の着工を阻止したこと。市当局はこれによって「スラム」と呼ばれる地区の再開発を狙っていました。計画が頓挫したあと、この「スラム」地区はソーホー(South of Houston)と呼ばれるアート系人材や社会運動家などが住む場所として知られるようになったのです。
→しかしさらにのち、文化的価値の上昇したソーホーは、地価が高騰して現在は高級住宅(アパートメント)街となっています。これがいわゆるジェントリフィケーションの先駆です。

このように、ジェイコブズの守備範囲は、大きく言えば「都市計画」です。都市の空間的なデザイン、商業(経済)的な機能などを、現実生活を暮らしている住人にとってどうかという視点で論じているのが、かの女の書いたものの魅力です。だから、かの女の書いた本は、なにを勉強するということではなく、都市地域に生活する者として共感するかどうか、どこに共感できるか、という点のほうが大事だと思っています。

かの女は、日常生活で歩いたり自転車でうごく範囲、つまり生活圏がどのようであったら都市は住人にとって心地よく暮らしやすいかについて、観察に基づいた具体例を示しながら提案します。私が共感した本と箇所は、同じところに共感する人は多いようで、有名な箇所です。1961年に書かれた『アメリカ大都市の死と生』の第8章〜11章に記されている、都市が活き活きするための4つの条件で、①空間用途の重層(複合)が多くあること、②短く角を曲がる機会の多い街区(ブロック)、③新しい建物と歴史ある旧い建物とが共在する風景、④高い人口密度、を挙げているくだりです。(以下、原文。ここに訳文も載ってます。)

  • Condition 1: The district, and indeed as many of its internal parts as possible, must serve more than one primary function; preferably more than two. These must insure the presence of people who go outdoors on different schedules and are in the place for different purposes, but who are able to use many facilities in common.
  • Condition 2: Most blocks must be short; that is, streets and opportunities to turn corners must be frequent.
  • Condition 3: The district must mingle buildings that vary in age and condition, including a good proportion of old ones.
  • Condition 4: The district must have a sufficiently dense concentration of people, for whatever purpose they may be there. This includes people there because of residence.

いま見返しても、いやー正しいよなあ、と思うのです。これはそのうち、時間があれば話し合いたいことがらです。

今回の『発展する地域 衰退する地域』は、そんなかの女が書き残した本ですが、経済学がGNPのような数字で各都市の経済規模・豊かさの指標を示しているのに対抗して、各都市やその近郊・近隣農村の人びとの経済活動がどのようであるか、そしてその連携や役割分化がどのようになされているかによって都市の経済のあり方が決まっていく、ということについて述べたものです。みなさんは、将来どんな都市(あるいは農漁村)に暮らしたいですか?そして、それを考えるときに、なにを基準にするのでしょう?

地域社会学の講義では、一方でおもに制度とその運用の社会的効果について学ぶ文献(地域福祉、子育て・教育、まちおこし、分権化)を読み進め、各トピックについて考えていきます。もう一方で、もう少し別の視点・全体的な視点、しかも生活する住民からの視点で地域をみるとどうなるかを考えるために、ジェイコブズの本を用意したわけです。詳しくは、次回の講義で議論しましょう。


参考文献
Jacobs, Jane[1961→1992]The Death and Life of Great American Cities, Vintage Books(訳書あり)
ジェイコブズ、ジェイン(中村達也訳)[1984(1986→2012)]『発展する地域 衰退する地域:地域が自立するための経済学』、ちくま学芸文庫
塩沢由典ほか編[2016]『別冊 環 22:ジェイン・ジェイコブズの世界』、藤原書店

2016年10月26日水曜日

データによる記載の基本

毎日、3時間の作業ができるように机の上を整理しましょう。自分が気に入る整理のしかたでかまいません。整理整頓。自分にとってぐちゃぐちゃの机は、近づくのが億劫になります(私もよく経験します)。

さて、先日述べた「データによる記載」部分について、作業の基本を説明します。これは(1)データの整理、(2)図表の作成(あるいは観察や聞き取りの事例作文)、(3)整理したデータの説明文の作成、の3段階に分かれます。

卒論に使うかもしれないもので、(1)データの整理を済ませていない、調査しっぱなしのデータがありますか?すぐに済ませましょう!「これは絶対に使わない」というものは除き、あとはまず、手書きのノーツからファイルを作成。手書き状態のものがまだだいぶある、という人は、休日を使って集中して済ませるべきです。ノーツを文書ファイル化していないものは、材料にすることができません。

調査の直後に文書ファイル化したノーツほど、価値があります。手書き調査メモに細かい部分を肉付けしながら、詳しく再現することができるからです(ここも参照)。時間が経ったものはそれが難しいんですが、ないよりましだし悔やんでも遅いので、「肉付け」は諦めてさっさと文書ファイル化する。これに30時間以上かけていては、時間が足りません。集中してこなしてください。

次に(2)図表の作成(あるいは観察や聞き取りの事例作文)です。仮バージョンを自分で作って来て、面談でバージョンアップする、ということをしましょう。必須事項は次のとおり。

  • (a)図表に使われているデータが、どんな調査方法で得たデータなのか、説明文を作ること。
  • (b)図表は、どこに注目してどうみればよいのかなど、図表の見方の説明文を作ること。
  • (c)その結果、どんなことを述べたい(説明したい)図表なのか、論文全体の展開に沿った説明文を作ること。
  • (d)図表には、かならずタイトルをつけること。タイトルは、なにを説明するための図表なのかわかるものにする。

(a)(b)は自分でできるはずです。(c)(d)になってくると、やや難しくなるので、議論が必要です。

さて、そうなると(3)整理したデータの説明文、つまり卒論の本文については、上記(a)~(d)を組み合わせ、編集し加筆して行くことで自然にできていきます。

観察の事例や、インタビュー結果を事例として示す場合も、基本は(a)~(d)は同じ。ただ、少し注意点がちがうところもあります。

(a)調査方法については、いつ・どこでも記録する。具体的な調査日のほかにも、祭りの調査だったらお祭りの前に聞き取りをしたのか、当日なのか、後日なのか。それによって、応える人がどういうつもりで応えているのかはちがってくるので、データをどう解釈すればいいのかも変わってくるからです。

(b)多くの場合、観察やインタビューの事例は、卒論本文において図表ではなく文章で示されるわけですが、それにしてもどこに注目するかという「読者の注意点の誘導」は必要です。これは(c)なにを述べたいがための事例か、ということにも直結します。事例を示したあとで、この事例が、この卒論の論旨とどう関係しているのか、だからどのように重要なのかを、説明しなくてはならないからです。

そして、できるかぎり事例にも(d)タイトルをつけましょう。(b)(c)が考えられれば、自然に出てきます。

2016年10月24日月曜日

全体の見通し⇄データによる記載

中間発表まであとひと月を切り、そろそろみなさん気持ち的にも卒論の追い込みスイッチが入っていると思います。中間、というなまえにだまされてはいけません。卒論のコース締切は中間発表の日から、ほぼ1ヶ月後なのですから。約束通り、このコース締切で最後まで書けていない人は、さらに1ヶ月後の学部〆切時点でのできあがりを保証できません。

というわけで、時間との勝負です。時間の使い方をまちがっては失敗します。みなさん、もううっすらとした見通しはついていると思いますが、ここでは時間の使い方を指示します。

やるべきことは(1)全体の見通しを立てることと、(2)データによる記載をすすめること、この両方です。卒論面談ではおもに(1)をやりますが、そのとき、議論の材料となる(2)がなければなかなかすすみません。いまは(2)にもっとも時間をかけるべきです。1日に3時間は割いてほしい。

(2)を3時間やっていると、どれだけ時間がかかりそうかがすぐ分かります。3時間では、慣れてきた人でも1,000字すすむかすすまないか。卒論の量的な目安は20,000字ですから、単純計算で最低20日は必要ということになります。

そして、毎日(1)も15-30分でいいので時間を割いてください。具体的にやることは、ふたつあります。第1は、目次を見直すこと。目次は全体構成を示すものであり、ページ数確認のものではない、と思ってください。(2)自分の調査データの説明の方向が分からなくなったときは、(1)全体構成のなかでそのデータを使う部分がどんな役割を果たすべきなのかを考えるべきです。

第2は、その「全体構成のなかで果たす各部分の役割」を考えるためのことです。各章の冒頭に、その章で述べられる内容を要約した「要約文」のような1段落(リード文)をつけましょう。これは、パラグラフ・ライティングの考え方です。

たとえば完成する卒論が全5章だとすれば、第1章が研究の目的、第2章が方法と対象、そうすると第3章、第4章あたりが調査データを使って書く部分で、第5章がまとめと考察(こうした基本構成は、先日配布のレジュメに書きましたので見直してください)。とくに、(2)データによる記載に直結する第3章、第4章の部分に「要約文」を着けることは重要です。

要約文の付け方については、One Drive上に私のなまえのフォルダがあり、私の書いた論文を例として upしていますので(フォルダ「161024 各章要約文」)、具体例として参考にすること。

以上が、やることです。まとめます。データによる記載は、1日3時間は割いてすすめること。それが終わったら、15分~30分は全体の見通しを立てる作業にあてること。3日にいちどは、バージョンアップしたファイルをOne Driveにあげること。これのくりかえしで卒論、絶対にできあがります。

2016年3月14日月曜日

就活_2016

1.大事なのは、スケジュールとモチベーションの管理です。
  • 卒論と就活の両立はたいへんですが、やってみないと実際のスケジュールは立ちません。どちらもひとまずやってみることが第一、スケジュールとモチベーション管理が第二、うまくやれるかどうかはそれからです。

2.費用対効果の最適化を考えましょう。
  • 就活に振り回されないこと。一定以上の数(場数を踏む)は必要、しかし多すぎても疲れるだけ。地域や業界を考える。関東一本やり、マイナー業界一本やりは高リスク。定番のもの(流通、銀行etc.)も受けておき、精神的余裕を。

3.エントリーシートの書き方は、こちらも参照すること。
  • もとめられた項目に対する応答としてちゃんと書けることが第一、自分の人物像が描けることが第二です。第一だけではダメ。(文章が)上手に書けるかどうかは、そんなに問題ではありません。

4.やったことから確実な自己アピールを組み立てる。
  • 自分の大学時代にやったことを50リストアップする。次にそのことの意味を考える(各100字)。それを読んでみる。就活相手からどう見えるかを考えて、自分の人物像をKJ法的に組み立てていきます。

2016年2月26日金曜日

2016_卒論への道(その1)

春休みのあいだに、とにかく調査をはじめましょう。3年後期のゼミで言ったように、調査ノーツのファイルを貯めていってください。1回の調査で1つのファイル。ノーツがなければ、春からの4年ゼミでなんにもできません。

1回の調査ではなにも分かりません。分からなくてふつうです。調査の回数を重ねていくと、なにかが見えてきます。ですから、調査を始めることをためらっていてもなんのメリットもありません。「調査をはじめる」という点に関しては、私はなにも助けてあげられないのでそのつもりで。私が手助けできるのは、みなさんが調査ノーツをみせてくれて、そこから先です。

調査ノーツには、いろいろなことを、たくさん書いてください。文章の出来はまったく問題ではなく、情報量の多さだけが問題です。1回の調査でページ半分の15行しかノーツがない、というようなのは論外です。調査中に手書きのメモをとる → できるだけその日のうちに、現場で見聞きしたことを思い出しながら肉付けしたノーツを文書ファイルにする。調査ごとにこれを繰り返す。文書ファイルの数が増えていき、これが卒論の材料となります。

「いろいろなこと」とはなにか。社会学の調査は、実態調査と意識調査と両方です。対象としているのが社会現象である限り、人びとの活動や関係、考えが生き生きと伝わる部分があるものが、よいノーツです。webサイトや行政の資料にすでにある情報は、わざわざ現場で集める必要はありません。

ノーツには、見聞きしたものごと、測ったり数えたりしたことの記載(データ)と、自分の説明・感想・コメントとを意識的に区別して記すこと。実習のとき、この区別が分からないノーツをよくみました。

文献の勉強はどうすればいいのか、気にしている人もいるかもしれません。現段階では、好きにしてください。文献を勉強しておいたほうが安心な人はどんどん読む。文献を読むと迷いが多くなるとか、分からなくなるという人は、いまは読む必要なし。それより自分のノーツの文書ファイルを何度も見返しましょう。また、3年後期の自分のレジュメ、そこに自分がメモした私のコメント、人のレジュメなども見返しましょう。次の調査への気づきがあるかもしれません。そうして、当初の調査計画を修正(バージョンアップ)していきましょう。

調査がある程度まですすんでくると、自分は卒論でなにを言いたいのか、なんのためにこれを調べているのか、分からなくなってくることがあります。そんなとき、自分のやっていることを相対化して把握しなおすのに文献=先行研究は必要になってきます。夏休みには、文献の勉強が必要になる段階を迎えることができるように、いまはとにかくデータ集め=調査を重ねましょう。

とはいえ文献が気になる人へ。参考になる論文は、Ciniiなどで検索し、PDFファイルでダウンロードできるものを入手するのが効率的だと思います。次に、書籍を図書館で当たりましょう。ただし論文検索のさいは、相談してください。みなさん論文検索に関しては例外なくヘタクソで、キーワード(検索語)の選び方が分かっていないので時間のムダになることが多いからです。

調査メモの取り方やノーツの作り方についてはこちらこちら、論文の読み方については、こちらも参考にしてください。

3月中も、メールは平日ほぼ毎日チェックしますので、わからないことは相談してください。日程によっては、午後に1時間面談も可です。

私も2015年度の4年ゼミ・卒業研究での反省を生かしながら、2016年度、みなさんとがんばっていきたいと思います。

2015年10月13日火曜日

大学生調査(統計資料です)

卒論で、大学生を相手にした調査をしている人もいます。ゼミ4年生では全員が、半構造化インタビューの方法をとっています。

自分の調査は「インタビュー」で「質的」なものでも、質問票による大量調査での量的統計データを参考にして、たとえば全国の大学生のなかで弘前大学の学生がどのような傾向や特徴があるのかをチェックする必要があるでしょう。

以下のwebサイトは、その意味で参考になります。ちなみに、大学生だけでなく高校生調査もあります。


「本調査 集計結果」から「分野別集計」をみてみてください。例えば、「1週間の平均的な生活時間、学期中と休暇中の別」「1ヶ月の生活費」のような項目があります。