2014年11月15日土曜日

社会システムの一般理論(AGIL)

社会学Aではこの2週、ふたりのアメリカの社会学者、タルコット・パーソンズ(Talcott Parsons; 1902-1979)とロバート・K.・マートン(Robert King Merton; 1910-2003)による理論の勉強でした。

パーソンズは、数学の公式のような、あらゆる社会集団がシステムとしてそれ自身を維持するありかたを示すAGIL図式を考えた。

社会の秩序はどうして可能になっているのか。17世紀のトマス・ホッブズ『レヴァイアサン』は「自然状態は万人の万人に対する闘争だ」と言った。だったらなぜ、強制力で力づくに押さえつけられずとも、現実の社会は戦争状態ではなく平和状態が常なのか。われわれは平和状態がよい・正しいからだとか、法律があるからだとか思って済ませがちですが、こういうことを「なぜ」と考えるあたりが社会学者です。

おさらいです。社会学では、社会の単位は個人ではなく、個人どうしの相互行為だと考えます。この相互行為の履歴が蓄積されることで、パターン化され、「こういうときにはこうふるまうものだ」「こういう場ではこれはアウト」などの暗黙の了解、規範や文化というものが生じてきます。こうしたものがない場合、社会のなかのそれぞれの個人がそれぞれメリットを追求するような状態では、ある個人は、相手の出方が分からないゆえに、自分の行為選択が困難な状態に陥ります。これが行為の二重条件拘束性(double contingency)で、こういう状況を理解するのにもっともシンプルなモデルが、ゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」でした。

お互いに相手を出し抜いたり、相手の出方におかまいなく自分のメリットを追求するよりも、協調的にふるまったほうが結局得(win-win)となる。相手の出方がわからずに自分本位にふるまえばつぶしあいとなり、結果いいことはない。「囚人のジレンマ」が教えるのは、こうしたジレンマ状況。じっさいの社会にはこれにあてはまりそうなセッティングは無数にある。だから、いちどかぎりではない、中長期的な関係を持とうとする人びと(親友、学生と教師、商売のお得意取引相手、外交の相手国 etc.)はジレンマ回避のために協調します。個人でも企業でも、中長期的関係を前提にお互いつぶしあうことを避ける、基本「win-win」の枠内での(相手にとってwinが少しでもあり、自分にとって少しでもwinが多いというところでの)自己得利益追求をしたほうが、うまくいきます。

さて、パーソンズは社会的な行為を方向づける要素として次の4つを想定しています。目的、手段、条件、規範的オリエンテーション。行為に目的と手段があるということは分かりやすい。あとの二つは;

  • 条件; 行為者を取り巻く環境や状況のうち、行為者が制御(コントロール)できない要素。たとえば自然環境や経済状況、法律などの外部からの強制的規制。制御できるものが「手段」。
  • 規範的オリエンテーション; 社会の築き上げて来た価値観や規範で行為者に内面化されたもの。「条件」とは違い、外部からのどうしようもない強制があるわけではないので、ほかの行為選択もありうるにもかかわらず、人は自らのふるまいをすすんで規制していく。

われわれが戦争状態や行為の二重拘束性に基づいたジレンマに常に陥らずにすんでいるのは、これらによって行為を方向付けられたうえで、最適な行為を選ぼうとしているからなんですね。

じゃあ、行為をとりまく「社会システム」のほうはどうなっているか。社会システムにはさまざまなあり方がありえますが、そのなかで相対的にみて一定なもの(要素)があって、これを構造と呼びます。個人が社会に参加することを考えるとき、構造的な要素として考えるべきは「役割」、「集合体」、「規範」、「価値」であるとパーソンズは言います。「規範」「価値」あたりは想像つきますね。「集合体」は社会集団で、そのなかにいる個々人は「役割」を負っています。ここが重要。

先に、行為者がみずから行為を調整し方向づけていくメカニズムを説明しましたが、社会のなかではそういう調整が働くということを皆が知っており、かつ、中長期的な関係を持とうとする人たちは協調のため、お互いが分担している役割を意識する。その役割分担がうまくいったとき、社会内のコンフリクトは抑制される。パーソンズはこの状態が「本来の行為の二重条件拘束性にもかかわらず、役割期待の相補性があるゆえに、成り立つ」と表現した。

相互行為が成り立ち、社会が回っているとは、パーソンズ的にはそういうことです。以上が長い前説で、ようやくAGIL図式のおさらいです。

社会がシステムとしてあるていどの恒常性を保ちながら作動し存続していくためには、まず、


  1. そのシステムと、システムの外部環境との関係を調整する
  2. そのシステム内部の成員(参与者、社会のメンバー)の関係を調整する

というふたつの機能を必要とします(機能要件)。

この2つの機能要件はそれぞれまた2つに分かれます。こうして4つに分かれた機能を担当するものを、それぞれサブシステムと呼びます。


  • 1-1 環境適応(Adaptation)機能担当; 経済システム。外部の環境へ適応し、活動に必要な資源を調達する。
  • 1-2 目標達成(Goal attainment)機能担当; 政治システム。外部の環境にはたらきかけて目標を達成しようとする。
  • 2-1 統合(Integration)機能担当; 社会的コミュニティシステム。成員の内的関係について、秩序立った活動を実現すべく役割分担など組織化する。
  • 2-2 潜在的パターン維持・緊張処理(Latency)機能担当; 信託システム。具体的には家族、宗教、価値など。成員相互の融合、緊張の解消のために機能し、パターンの再生産に貢献する。

これら4つのサブシステムそれぞれの頭文字を取って「AGIL」です。で、これを四象限図示すると以下のようになります【図1】。社会システムが発達するということは、この4つの機能の分化・発達を意味し、逆に言えばこれらの機能を充足し発達させることができなければ、その社会システムは存続が危ぶまれるような状態となるか、外部環境との境界を維持できなくなって、環境と同化することになる。


【図1】

これをこのような四象限のマトリクス図にすることの第1のポイントは、このAGILのそれぞれ隣り合わせのサブシステムどうしは浸透(相互影響)し合い、かつ制御のハイアラーキー(hierarchy;ヒエラルキー、序列)があるという点だ。この序列は、エネルギーが低く情報量の多いサブシステムが、エネルギーが高く情報量の少ないサブシステムを制御する。その序列はL→I→G→Aで、潜在的パターン維持機能を担当する信託システムは統合機能担当の社会コミュニティシステムを統御し、その社会コミュニティシステムは政治システムを、政治システムは経済システムを統御する。ただし、これは数学の公式とちがって、すべての現象を代入してそのままL→I→G→Aのような制御関係が得られるわけではない。隣接するサブシステム間の関係のうち、ある側面に着目するとみえてくる制御関係を見いだすためのものである。これがパーソンズの説明でした。


【図2】

四象限図示の第2のポイント。この「社会システム」の各象限に配置されたサブシステムは、さらに4つのサブシステムに分かれる【図2】。また、社会システムは「行為システム」というさらに全体のシステムの四象限のなかのひとつの象限を占める。さらに「行為システム」は全体システムである「人間の条件の一般パラダイム」の四象限のなかのひとつの象限を占める、というように、パーソンズの一般理論モデルは「箱のなかの箱」構造を取るからだ【図3】。さすがにここまでいくと、これが本当に一般的な説明力をもつのかどうか、私にもよく分からない。ひとまずみなさんは「社会システム」のAGIL【図1】の説明力を試してみれば、それで大丈夫。


【図3】



参考文献
タルコット・パーソンズ(倉田和四生編訳)『社会システムの構造と変化』、創文社、1984年
恒松直幸・橋爪大三郎・志田基与志「Personsの構造-機能分析:彼自身による展開/その批判的再構成」、『ソシオロゴス』第6号、pp.1-14、1982年