2014年10月23日木曜日

統計を眺めよう

昨日の講義はMax Weberをあつかいました。『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の導入でかれは、

統計によれば、近代的企業の資本家や企業家、上層熟練労働者、商業教育を受けた労働者ほか高級労働はプロテスタント(新教)の割合が高い(総人口に占めるプロテスタントの割合に比べて高い)。住民間で職業分化や社会層分化が起きているところは同じ傾向がみられる。なぜか。

という疑問から出発しています。つまり、統計を眺めていて発見した事柄から出発しています。これは本のつくり上こうしているだけのことで、じっさいにはその前にいろいろの下調べや観察があったにちがいありませんが、面白い導入です。謎解きの始まりで、わくわくします。

ところで講義でも伝えましたが、ここで注目してほしいのはこの本の原著が書かれた1904-05年の時点ではすでに統計が国家によって整備されていたという事実です。さまざまな人びとの交通がさかんになった近代前期のにぎやかな都市には、SimmelやWeberの暮らしたベルリンに限らず、多くの職業・経歴の人々が生活していました。

つまり人口流動性が高まり、いろいろなプロフィールの人が集まってきた都市こそは、「住民間で職業分化や社会層分化が起きているところ」。〈社会〉や〈秩序〉がなぜ可能なのかを考え、近代化ということについて考える学問である社会学が生まれ、発達したのもそうした近代都市の発達があったからなのです。各地域、各国で統計があれば、比較も可能になる。

統計のなかでは、こうしたさまざまな人々が数量化され、カテゴリ・属性によって分類されて把握されます。『プロ倫』の冒頭にWeberが持ち出しているのは1895年の「職業統計」であり、ここでは少なくとも職業や宗教という属性が指標となって整理・把握されていることがわかります。アフリカの国に行けば、いまでも人口統計の下位区分には「民族集団(ethnic group)」があります。

このような統計は、人びとから個性をいったん捨象して集合(人口)として整理・把握し、社会の実勢をみようとします。これは近代になって生まれた社会の統治技法でもあるのです。(この話は、長くなるのでまた別に。統計の歴史についてのお勉強はこちら

Weberのように、統計を眺めてなにか論点や作業仮説(research question)をみつけてみましょう。大きく分けると、統計には実態調査にもとづくものと、意識調査にもとづくものがあります。前者の代表は国勢調査、後者の代表は世論調査でしょうか。

国勢調査は、日本での人口センサス(Population and Housing Census)の呼び名です。1920年から5年ごとおこなわれていて、西暦1の位が「5」の年に簡易調査、「0」の年には大規模調査を行います。規模の大きさ(日本全域)と、実施の歴史の長さがあって、地域間比較や経年変化をみるには格好の材料です。実施主体の総務省統計局のwebサイトから、内容をみることができます。国勢調査はこちら社会生活基本調査なんてのもあります。

世論調査は、目的や実施主体さまざま、多種類あります。おすすめは、社会学者が中心になって企画しNHK放送文化研究所が実施している日本人の意識調査で、これは16歳以上を対象に「生活目標」「人間関係」「家族」「仕事」「政治」などの項目について質問票を使って調べたもの。1973年から5年ごとに実施、最近のものは2008年に実施されて、『現在日本人の意識構造 [第7版]』(NHKブックス)にまとめられています(調査で使われた質問票も載ってます)。ネタの宝庫。機会があったら、統計を眺めてみましょう。


【参考文献】
マックス・ウェーバー(大塚久雄訳)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波文庫、改訳版1989年(原著は1904~1905に発表)
NHK放送文化研究所編『現在日本人の意識構造 [第7版]』NHKブックス、2010年