2016年11月25日金曜日

研究の目的


卒論(に限らず論文一般)のおおまかなフォーマットは、次の4部構成です。

Ⅰ.研究の目的(はじめに)
Ⅱ.調査の対象と方法
Ⅲ.本論(ここが2〜3章分)
Ⅳ.議論のまとめと考察、残された課題

もっとも分量が多いのは「Ⅲ.本論」の部分です。標準的な卒論は、この第Ⅲ部が2章分〜3章分からなり、ほかの部は1章ずつで全体が5−6章となります。

先日まで、データとその説明文をどんどん書いていけ、と言っていたのは「Ⅲ.本論」の部分を完成させるためでした。まだその作業のまっただなかの人もいますが、そろそろⅡ.とⅢ.の部分は、ほぼ内容(材料となる文書ファイルや図表ファイル、および説明文)が出そろったのではないかと思います。まだできていない人は、急ぎましょう。

コース〆切まで2週間を切りました。もう冒頭のⅠ.と最後のⅣ.の部分に取りかかるべきです。今回はこのうち「Ⅰ.研究の目的」でなにを書けばよいかということについて述べます。すでにこの部分を書いている人も、もういちど見直してみましょう。

今年度の卒論は、どれもタイトルがよくできていると思います。タイトルに、卒論でなにを明らかにしたいかが現れているからです。たとえば、グリーン・ツーリズムを実施する際に受け入れ農家がクリアすべきハードルを明らかにすること、公民館の開催行事への住民の参加形態を明らかにすること、地方劇団と多くが社会人であるその劇団員の活動の実態を明らかにすること、滞在型地域外人材の集落維持に果たす役割を明らかにすること、などがそれぞれの研究の目指すところです。

研究の目的で書くべきなのは、基本的には、みなさんがタイトルで表現した「何を明らかにしたいか」です。だから、(A)まずタイトルの詳しい解説(解題)が必要でしょう。タイトルで使っているキーワードの説明などがそれにあたります。また、これは必須ではありませんが、(B)その卒業研究の着想にいたった経緯から導入してもいいと思います。個人的な疑問や気づきから入るやり方です。

でも、(A)(B)だけでは足りません。(C)「なぜ、それ(タイトルで表されたこと)を明らかにする必要があるのか」、言い換えれば「なぜ、それを明らかにすることが重要なのか」を説明する必要があります。じつはこれがいちばん重要です。それをしないと、たんなる趣味の文章に近づいてしまうからです。

なぜ、それを明らかにすることが重要なのか。この根拠を説明するやり方は、通常、2つのパターンしかありません。第1は「いまその社会現象が、現実社会で重要な課題とされているから」あるいは、「現実社会で重要な課題とされていることと、この研究の扱っているテーマが関連の強いことだから」というものです。もちろん後者の場合は、その「強い関連」の解説をていねいにおこなうことは必須です。また、どの資料が、どのように注目しているのか。統計、政府や自治体報告書などの資料、新聞・雑誌記事などに根拠をもとめ、本文中に要約して示しましょう。

第2は、「その社会現象が、ほかの研究で重要な課題とされていたから」、そして、「そこで議論されていることを視点や角度を変えて観察し、新しい知見を付け加えられると見込んだから」。たとえば、やや安易ですがこういうこともあります・・・「関東地方での調査はあるが、それが青森県でも妥当かどうか比較できると見込んだから」(もちろんこの場合も、なぜ青森県で比較調査をおこなう意義があるか、については説明が必要です)。いずれも、すでに注目すべきことがらとして同様の研究がある、それを踏み台にして新しいことを言う、というやり方です。これも、根拠となる論文・書物を引用し、本文中に要約したり抜粋したりして示します。

この2つのやり方は、どちらかひとつを採る、というのではなく両方が入っているほうがいいです。同じ社会問題でも、行政やジャーナリズムがそれを扱うときのやり方と、研究でそれを扱うときのやり方(とくにデータの分析や解釈の部分について)はちがうからです。つまり、第1のやり方オンリーでは弱く、どちらかといえば第2のほうを研究では重視しています。これがよく言われる「先行研究レビュー」です。

では、以上を参考に現時点での自分の原稿の「Ⅰ.研究の目的」部分をチェックしましょう。(A)(C)の要素は、ちゃんと入っているでしょうか?(C)のなかには、第1と第2の要素—とくに第2の先行研究レビューが入っていますか?

もちろん、中身となる「Ⅲ.本論」の部分があるのだから、その中身との兼ね合いも勘案しましょう。こうして、いま「Ⅰ.研究の目的」を見直し、バージョンアップしていくことで自分の論文の全体が見えてきますし、最後の「Ⅳ.まとめと考察」の部分に書くことは、おのずと明らかになってくるはずなのです。

2016年11月3日木曜日

構成とデータ(図表、事例)で伝える

来週のゼミでの配布資料について、タイトルと目次だけのファイル、本文だけのファイル、図表だけのファイルを分けて印刷し、配布するよう指示しました。本文をふくめすべてを配るのは4年生と私にだけ、2、3年生に配るのは「タイトルと目次」「図表(と事例)」の2種類のレジュメだけです。

なぜこんな指示を出したのかといえば、論文の叙述には、(ⅰ)構成が意識された展開、(ⅱ)データをもとにしっかりと社会現象を述べていくこと、の2点がもっとも重要だからです。今回の指示にしたがった作業を通して、これらに関して意識的になってください。

このエントリーも含めた、ここ3回分の卒論関連エントリーを読み返してください(全体の見通し⇄データによる記載データによる記載の基本)。私は一貫して、上で述べた重要点をクリアしていくための方向と方法、作業内容を示し続けています。

次回ゼミ発表への対策を以下に伝えます。

  • まず、図表類(事例含む)も本文も、これまでに作成したすべてを出してください。これまでの到達の全体、これから組み立てる卒論の材料のすべてが私と著者であるあなたに具体的に見えていないと、私もアドバイスのしようがありません。
  • 図表には、よく考えてタイトルをつけてください。事例の文章にも。ばくぜんとしたタイトルはやめる。何のデータが示された表か、何と何との関係が示されたグラフか、何を示そうとした事例か。そういうことが分かるタイトル。
  • 表は、どういう順番で表のなかのデータを並べるかをちゃんと考えること。なんとなく、は絶対にダメ。表としてみにくくなるし、説明もボンヤリしたものになるからです。説明したいことがみえやすい順番に並べること。

以上が、おもに全体方針とデータについて。次に、構成について。2、3年生に配布するのは「タイトルと目次」「図表(と事例)」だけです。発表者ひとりに20分程度しか時間を取れませんので、長々と本文を読む時間もありません。

  • 研究目的、各章の要約文は、かならず用意しておく。研究目的を述べ、データを説明する各章では「第×章では、・・・・・について明らかにするため、・・・・・の調査によって得たデータをもとに・・・・・ということを示します」というように、予告してから図表・事例の説明に入ること。
  • 図表や事例のデータ説明のあとには、そのデータをとおして分かること、そのデータから解釈できることを述べる。
  • 全体の構成と、それぞれのデータを全体のどの部分や位置にあるといいか、なにを説明する役割であるといいのかという関係がわからなくなったときには、先週に実例を示した「自分への作業指示書」を1時間かけて作ってみましょう。

だいたいそんなところですね。がんばればできると思います。