大学院の「農村社会史」はすでに3回分の講義が済んでいます。「農村社会史」というなまえの講義が開講されている大学は、多くはありません。なにをやるかということで、最低限決めてあるのは(1)「日本国内」の農村について中心的に扱うということ、(2)「戦後」を中心に、場合によっては「明治以降」の農村と農村研究について扱うということです。
「史」となまえがついているからといってこの講義は「歴史」の勉強をしようというのではありません(私は歴史学の専門家ではありません)。現在の農村部の地域社会を社会学的に理解するための知識を学んでいこう、というものです。社会とは、それがどのような人間集団であれ、歴史をもっています。歴史があるなら、その社会独自の規範があり、そうした規範があるからその社会で特有の行為に対する解釈が成り立つのだ、というのは社会学の講義でも繰り返し述べてきた基本です。
で、農村部というのはとくに歴史が長く厚く、現在の状況を理解する土台として歴史的に成立して来た「構造」なり「規範」なりを知らなくては理解できない。そのための最低限の知識を勉強していこう、というのが目的です。
そんなわけで、手始めに社会学的にムラ(村)を理解するための基本であるイエ(家)という制度について勉強しています。源流は民俗学を始めた柳田國男ですが、その源流から農村社会学の流れを作ったのが有賀喜左衛門、福武直、鈴木榮太郎、喜多野清一といった面々。前回読んだのは福武直が敗戦直後に調査し、出版した書物のなかの論文「東北型農村と西南型農村」でした。
そのほか、講義でも解説しましたが、これが書かれた背景には当時のGHQが主導したといわれる農村の「民主化」が問題意識としてあります(論文中にはこれはそれほど明確にはされていませんが)。ちなみに戦後の農村民主化とは、農地改革、農業協同組合事業、生活改善事業を3本柱としました。民主化がすすんでいるはずが、実態をみてみると「封建的遺制」つまり封建的な地主-小作制度の残存がみられる、等々がその問題の捉え方です。
この論文の表面である「東西比較」の奥に隠れて一貫しているのは、「実態」をベースに当時の農村社会を理解し、それまで学説が築き上げて来た「型(model)」や民主化という「制度・政策」との差異を問題にする、という議論の作り方=【理念型と実態との差異、制度化と実態との差異から〈社会〉の動きをみる】です。こうした現地調査に基づく事例研究での議論の作り方も、文献を読みながら学んでいってほしいことです。
次回からはムラのなかでの社会関係、相互扶助について勉強しますが、イエについてもっと勉強したい人は以下の文献も読んでみてください。
有賀[1971]のほうは原典(古典)的な文献で、農村地域をフィールドに修士論文を書こうという場合には必読。ちなみにこの「家の歴史」が最初に出版されたのは1965年、調査はさらに古いです。鳥越[1993]はやさしい概説書で、この講義の副読本的な位置づけです。
また、初回でとりあげた以下の論文は「フィールドワークもの」ではありませんが、人口データを使った実証的研究です。書かれている内容もたいへん勉強になりますし、論文の構造自体も分かりやすいので、論文とはこういう展開で書かれるものだ、ということを学ぶためにも何度か読みかえしてみるとよいと思います。
―というわけで、この講義は歴史の講義ではないけれど、歴史的に成立した規範や制度についても勉強する、歴史的制度を参照しながら現在をみていくんだという説明でした。
この講義では日本のことを中心的に扱うということもあって、英語文献は扱いませんが、さいごに少しだけ英語の勉強を。じつは、講義には英語のなまえもつけられています。でも「history of〜」みたいななまえはつけていません。私の独断で、「Agrarian Studies」となっています(シラバスにも、出てない…)。でも、根拠がないことではありません。米国のYale大学のAgrarian Studiesプログラムのページがそのコンセプトを紹介しています。みじかい英文なので、これをちょっと読んで、イメージしてみてください。
「史」となまえがついているからといってこの講義は「歴史」の勉強をしようというのではありません(私は歴史学の専門家ではありません)。現在の農村部の地域社会を社会学的に理解するための知識を学んでいこう、というものです。社会とは、それがどのような人間集団であれ、歴史をもっています。歴史があるなら、その社会独自の規範があり、そうした規範があるからその社会で特有の行為に対する解釈が成り立つのだ、というのは社会学の講義でも繰り返し述べてきた基本です。
で、農村部というのはとくに歴史が長く厚く、現在の状況を理解する土台として歴史的に成立して来た「構造」なり「規範」なりを知らなくては理解できない。そのための最低限の知識を勉強していこう、というのが目的です。
そんなわけで、手始めに社会学的にムラ(村)を理解するための基本であるイエ(家)という制度について勉強しています。源流は民俗学を始めた柳田國男ですが、その源流から農村社会学の流れを作ったのが有賀喜左衛門、福武直、鈴木榮太郎、喜多野清一といった面々。前回読んだのは福武直が敗戦直後に調査し、出版した書物のなかの論文「東北型農村と西南型農村」でした。
- 福武 直[1949]「東北型農村と西南型農村」、福武直『日本農村の社会的性格』、東京大学出版会、pp.69-115
そのほか、講義でも解説しましたが、これが書かれた背景には当時のGHQが主導したといわれる農村の「民主化」が問題意識としてあります(論文中にはこれはそれほど明確にはされていませんが)。ちなみに戦後の農村民主化とは、農地改革、農業協同組合事業、生活改善事業を3本柱としました。民主化がすすんでいるはずが、実態をみてみると「封建的遺制」つまり封建的な地主-小作制度の残存がみられる、等々がその問題の捉え方です。
この論文の表面である「東西比較」の奥に隠れて一貫しているのは、「実態」をベースに当時の農村社会を理解し、それまで学説が築き上げて来た「型(model)」や民主化という「制度・政策」との差異を問題にする、という議論の作り方=【理念型と実態との差異、制度化と実態との差異から〈社会〉の動きをみる】です。こうした現地調査に基づく事例研究での議論の作り方も、文献を読みながら学んでいってほしいことです。
次回からはムラのなかでの社会関係、相互扶助について勉強しますが、イエについてもっと勉強したい人は以下の文献も読んでみてください。
- 有賀喜左衛門[1971]「家の歴史」、『有賀喜左衛門著作集(11)―家の歴史・その他』、未来社
- 鳥越皓之[1993]『家と村の社会学(増補版)』、世界思想社
有賀[1971]のほうは原典(古典)的な文献で、農村地域をフィールドに修士論文を書こうという場合には必読。ちなみにこの「家の歴史」が最初に出版されたのは1965年、調査はさらに古いです。鳥越[1993]はやさしい概説書で、この講義の副読本的な位置づけです。
また、初回でとりあげた以下の論文は「フィールドワークもの」ではありませんが、人口データを使った実証的研究です。書かれている内容もたいへん勉強になりますし、論文の構造自体も分かりやすいので、論文とはこういう展開で書かれるものだ、ということを学ぶためにも何度か読みかえしてみるとよいと思います。
- 平井晶子[2003]「近世東北農村における『家』の確立ー歴史人口学的分析」、『ソシオロジ』47巻3号、pp.3-18
―というわけで、この講義は歴史の講義ではないけれど、歴史的に成立した規範や制度についても勉強する、歴史的制度を参照しながら現在をみていくんだという説明でした。
この講義では日本のことを中心的に扱うということもあって、英語文献は扱いませんが、さいごに少しだけ英語の勉強を。じつは、講義には英語のなまえもつけられています。でも「history of〜」みたいななまえはつけていません。私の独断で、「Agrarian Studies」となっています(シラバスにも、出てない…)。でも、根拠がないことではありません。米国のYale大学のAgrarian Studiesプログラムのページがそのコンセプトを紹介しています。みじかい英文なので、これをちょっと読んで、イメージしてみてください。